音楽のテンポをはかる機械に、「メトロノーム」というものがあります。楽器を学んだことがある人なら、1度は使ったことがある定番の装置ですが、もっとも原始的なメトロノームは、振り子の往復運動を利用して、規則正しいリズムをカチカチ刻む仕組みになっています。
現在では電子式のものも広く普及し、振り子式よりも大幅に小型化されましたし、スマートフォンの時代になってからは、メトロノームアプリも登場しています。それどころか「WEBメトロノームサービス」というものもあり、インターネットブラウザがあれば、どんなデバイスでもメトロノーム代わりになる、という時代が到来しました。
自分の感じる「時間」を味わいたい
以前にも取り上げたように、音楽におけるテンポは、人間的な感覚の「時間」から来ています。人間の体内時計では、1日は25時間のほうが良いそうで、現在我々は地球の公転から計算された1年、それを分割した1日、そしてそれを分割した1時間や1秒に「あわせて」生活していますが(しかも、天体の運行は微妙に端数が出るため、現在は原子時計の「1秒」を元にすべての時間が規定されています)、それは、人間が自分の中に感じる「時間」ではなく、宇宙や地球の時間の「速さ」に自らを合わせているに過ぎません。だからこそ、人間の創造力で作られる音楽では、その速度を「速さ」とは言わずに、「テンポ=時間」と表現するわけです。自分の感じる時間を味わいたい、そんな動機が音楽を作る原動力のひとつなのかもしれません。
古代から中世そして近代に至っても、人々は通常の生活時間でさえ、それほど正確な時計を必要としませんでした。音楽においても、テンポは機械で計測されるべきものではなかったのです。今でも、音楽の速さに関する楽語はアバウトなもので、演奏家の裁量の余地がかなり残されています。さらに、数百年前と現代では日常の時間感覚も違うので、おそらく同じ楽語、たとえば「アレグロ=速く」と書かれていても、昔と今では解釈は異なる可能性もあります。