コロナ追い風、カミュ『ペスト』累計125万部 「Yahoo!検索大賞2020 小説部門賞」に

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   2020年12月9日発表の「Yahoo!検索大賞2020」で、アルベール・カミュ(1913-1960)の『ペスト』(新潮文庫)が〈カルチャーカテゴリー 小説部門賞〉を受賞した。

  • カミュ『ペスト』
    カミュ『ペスト』
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戦後最年少でノーベル文学賞

   同賞は、ヤフーサイト内で2020年1月1日から11月1日までの期間、前年の同期間に比べて検索数が最も上昇した語を、パーソン(人物)、カルチャー(作品)、プロダクト(製品)、ローカル(地域)の4カテゴリーごとに選出し、「今年の顔」として表彰するもの。

   カルチャーカテゴリーには、アニメ部門、映画部門、ドラマ部門など6部門があるが、活字文化唯一の部門である小説部門で『ペスト』が受賞した。

   この期間に小説としてよく検索され、前年同期と比べて検索数が急上昇した作品が『ペスト』だったということになる。

   カミュの『ペスト』は、1947年にフランスで発表された。フランスの植民地だった北アフリカのアルジェリアのオラン市を舞台に疫病ペストが蔓延していく中、人々がそれにどう立ち向かい、どう戦ったかを描いた長編小説だ。

   カミュ33歳の時の作品で、不条理という概念を思想の中心に据えたカミュの真骨頂を示す名作として知られている。

   『ペスト』刊行10年後の1957年、カミュは戦後最年少43歳の若さでノーベル文学賞を受賞した。邦訳版は50年に刊行。新潮文庫には55年にまず上下巻の形で収録され、69年に現在のような一冊本の新版として刊行されている。

   コロナ禍の中、あらためて注目を集め、今年2月以降12回にわたって合計36万4000部を増刷、新版の累計部数は96刷125万部となっている。 3月から5月にかけては全国主要書店の文庫部門ベストセラー1位にもランクインした。

三重の意味が込められている

   カミュはフランスの作家として知られるが、実はフランス生まれでもなければフランス育ちでもない。生まれたのは、フランスの植民地だったアルジェリア。父親はフランスからの入植者で、農業労働者。母親はスペイン系だった。カミュが生まれた翌年、父は第一次世界大戦に召集され戦死、4歳上の兄とともに母方の祖母の家に移る。家は貧しく、勉学に励むことができる環境ではなかったが、教師に恵まれ上級学校への進学が実現、アルジェ大学文学部を卒業している。

   アルジェリアは1830年から1962 年までフランスの植民地だった。『ペスト』の舞台がアルジェリアということには、カミュ自身の人生が投影されている。

   つまり、『ペスト』は、単なる疫病小説ではなく、フランスという強大な権力に蹂躙され、屈服を強いられるアルジェリアの姿とも重なる。

   さらに、ナチスの支配をも念頭に置いて書かれたものだといわれている。平和な町にある日、ナチスドイツが現れ、あっという間に町は彼らに占領され精神の自由を奪われる。

   フランスをはじめ欧州の多くの国民が、第二次世界大戦で、そんな「不条理」を経験した。ナチスに迎合した人もおれば、レジスタンスを試みた人も少なくなかった。『ペスト』の刊行は大戦が終わって間もない時期であり、作品に込められた暗喩を、欧州の多くの読者が自分のこととして実感できた。このように『ペスト』には三重の意味が込められているといわれている。

   価格は750円+税。

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