冬の寒い時期にこそ聴きたい
一旦スイスに腰を落ち着けた後、欧州各地を旅行しますが、クラシック音楽の母国であるイタリアにも頻繁に足を向けます。
この辺りのことは交響曲第4番の時にも触れましたが、南の国イタリアは、やはりチャイコフスキーの心に明るさをもたらしてくれたようです。他の作品を作曲する合間に、現地イタリアの音楽的素材・・・それは、ローマで遭遇したカーニバルの音楽だったり、道端で耳にした民謡だったり、滞在するホテルで聞こえた兵舎のラッパの音だったりしますが、そういったものを織り込んだ「イタリア」を音で表現する曲を構想しはじめるのです。すでに何回もイタリアを訪れているので、おそらく彼の頭には素材は十分揃っていたのでしょうか、全体で、15~16分もかかるオーケストラの曲なのですが、1月に2週間ほどで草稿を仕上げ、5月にはオーケストラ総譜を完成しています。その年の12月にはモスクワで初演されるというスピードで世の中に披露されました。
チャイコフスキーお得意の金管の明るいアンサンブル、メランコリーさを持ちつつ歌う弦楽器や木管楽器の旋律、それらがそれぞれ「イタリアの要素」を奏で、最後は南イタリアの軽快な舞曲タランテラのリズムとともに、華々しくクライマックスを迎えるこの曲は、初演の時から好評をもって迎えられ、現在でも広く愛されています。
チャイコフスキーの心に差したイタリアの太陽が、そのまま曲に反映されているかのような「イタリア奇想曲」。冬の寒い時期にこそ聴きたい名曲です。
本田聖嗣