「明日の子供達」はまっすぐ歩いてゆけるのか
渡辺美里を語る時に、触れなければいけないのが、19歳の時に初めて行われた西武球場でのコンサートである。女性アーティストの最年少スタジアムコンサートであり、そこから20年間続いた「スタジアム伝説」。89年8月の二日間公演は、雷雨のために二日目が中断せざるをえなかった。89年11月にその時の「リベンジ」として東京ドームで行われたのが「史上最大の学園祭」だった。
アルバム「tokyo」は、そうしたライブで得た自信がほとばしっている。
そう、30年前、東京は自信に溢れていた。街ばかりではない、若者たちもだ。
アルバム「tokyo」の前作、89年7月に出た「Flower Bed」は、ニューヨーク、ロサンゼルス、東京という三か所でレコーディングされた。ミュージシャンも海外の超一流のメンバーが参加している。「tokyo」の中の彼女の歌に備わった勢いは、そうした「他流試合」で得た自信もあるだろう。
アルバムタイトル曲「tokyo」にはこんな歌詞がある。
「20th Century 光をあびて
青い惑星 君はいる
幾千年の彼方から 朝と夜とが 訪れる」
「君のRevolution あきらめないで
愛するコトの答え 探す」
「君のSatisfaction ゆずらないで
そして今日が歴史になる」
自分たちが歴史を担っているという明日への希望。自由で奔放で伸び伸びとしていて軽やかにはみだしている。
東京はそんな若者たちのRevolutionにあふれる街だった。
30年というのはどういう時間なのだろう。
"十年ひと昔"という言葉を借りれば"さん昔"ということになる。
2020年の東京。STAY HOMEに押し込められ、緊急事態宣言に動揺し、誰とも近づきすぎないように日々の感染者数に怯えながら暮らす毎日。夜の街は憎まれ役になりライブハウスは標的になった。
アルバムの中の「遅れてきた夏休み」には、こんな歌詞がある。
「打ち水された あの駅前
商店街に 夏のにおい
花屋の店先 アサガオの鉢植え
色とりどりに ならびはじめる
金魚すくい 浴衣の帯 屋台 綿菓子 夏祭り ビルの間に あがる花火を
今は ひとりで見ているよ」
30年前の東京ーー。
夢と希望に溢れ、人と人のぬくもりと季節感に彩られていた街ーー。
それは20世紀の幻だったのだろうか。
2020年の「明日の子供達」は、まっすぐに歩いてゆけるのだろうか。
(タケ)