『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮新書)が、オリコン(新書部門)、トーハン(新書・ノンフィクション部門)、日販(新書・ノンフィクション部門)の年間ベストセラーランキングでいずれも1位となり、新書として「3冠」を達成した。
昨年は第3位
本のベストセラーは、おおむね前年の11月から翌年の11月までのおよそ1年間の累計で算出している。そのため毎年12月初めにベストセラーランキングが発表される。
同書は児童精神科医である著者の宮口幸治さんが、医療少年院で出会った「非行少年」たちの衝撃的な実態を明かしたもの。「丸いケーキを3等分してみてください」と言って丸い紙を少年に渡すと、普通は円の中心から放射状に線を引くが、それができない子どもたちが少なくないことをタイトルにしている。
19年7月に発売され、すでに昨年の年間ベストセラーランキングで新書(ノンフィクション)部門の3位にランクインしていた。20年2月に発表された「新書大賞2020」でも、大賞となった『独ソ戦』(岩波新書)に次いで2位。その後も売れ行きが落ちず、今年のトップになった。
オリコンのデータによる同書の期間累計部数(2019年11月18日~2020年11月22日)は 44万4815部。これまでの発行総部数は約65万部。新書としては驚異のロングセラーになっている。
「境界知能」がテーマ
本書は、人口の14%程度いるとされる「境界知能」をテーマにしている。「境界知能」とは、IQが70~84程度で、いわゆる「知的障害」(IQ69以下)とまでは言えないが、現代社会で生きていく上では相当程度の困難に直面していると考えられている人たちのことだ。「丸いケーキの3等分」ができないのは、境界知能ゆえなのだという。
いわゆる「非行少年」たちの中には、境界知能なので物事の認知能力が低く、幼少期からさまざまな困難に直面して「傷ついた子どもたち」がかなりの数含まれているという。
本書は、「『僕はやさしい人間です』と答える殺人少年」「非行少年に共通する特徴」など7章からなる。彼らを学校・社会生活で困らないように導く超実践的なメソッドも公開している。
価格は720円+税。
受刑者の2割は知能指数が69以下
ちなみに、大人の犯罪者と「知能」の問題は、以前から指摘されていた。
『刑務所しか居場所がない人たち――学校では教えてくれない、障害と犯罪の話』(大月書店)は、実際に服役し、出所後は高齢者や障害者の受刑者の社会復帰に取り組んでいる元衆議院議員の山本譲司さんの報告。刑務所に入るときは必ず知能検査を受けるそうだが、2016年に新たに入った受刑者約2万500人のうち、約4200人は知能指数が69以下、知的障害があるとみなされるレベルだったという。
ある知的障害者の場合、神社の賽銭箱から200円を盗み執行猶予。外に出られたんだから悪いことをしたんじゃないと思って、また100円盗んで今度は実刑判決。裁判では「まだ神様に700円貸している」と主張した。どういうことかというと、むかし母親と一緒に神社に行ったとき、母が1000円を賽銭箱に入れたことをしっかり覚えていた。だから差し引き700円の貸しがあると思い込んでいる。
「少年」よりもさらに低年齢層に目を向けた本では『漂流児童』(潮出版社)がある。社会から切り捨てられ置き去りにされた低年齢層の子どもたちを扱っている。中学校を長期欠席している生徒は全国で約20万人、生徒の15人に1人が発達障害・・・。著者のノンフィクション作家、石井光太さんは、「レールからこぼれ落ちた人々を社会がきちんと支えてこなかったことが、今の社会問題を生んでいる側面があるのだ」と強調している。