脱臼の悶絶 大竹聡さんは呑んで転んで未経験の痛さに反省しきり

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プロの酔っ払いが

   お酒に関する著作も多い大竹さんは、ただの飲食ライターの域を超えて「プロの酔っ払い」でもある。呑んで書くのが仕事だから、酒席の記憶には自ずと正確さが求められ、前後不覚に陥っては仕事にならない。その意味で「素人」のように階段を踏み外したのは不本意に違いない。ご本人も、穏やかな昼酒ゆえに「油断したのだろうか」と反省している。油断とは、ハシゴした店で夜まで呑んでしまったことだろう。

   初めて体験した脱臼の感想が「痛風より痛い」というのも大竹さんらしい。痛風はアルコール摂取、とりわけビールの多飲が発作に結びつくとされる病。呑兵衛という共通点を持つ私は幸い、脱臼・骨折も痛風もやったことがなく、痛さの実際はわからない。

   私事にわたるが、64年の人生で一番痛かったのは、30代と40代の2度経験した尿路結石の発作である。いずれも海外駐在時のこと。とくに最初は真夜中から未明にかけての発症で、救急外来に駆け込んだ。悶絶しながら、ポケット辞書を片手に不自由なフランス語で症状を説明するという生き地獄。痛くて吐いたのは、後にも先にもあの夜だけだ。

   「経験のない痛さ」を文字で表すのは難しい。少なくとも、酒やつまみの旨さを伝えるよりハードルが高い。大竹さんが用いた表現によれば、イタイイタイと繰り返す自分に「黙ってられねえのかバカヤロー」と言い聞かせるほどの痛み、ということになる。

   筆力あってのことだが、脱臼の顛末がそのまま連載1回分になるのは羨ましくもある。転んでもただでは起きないライター魂、私も見習いたい。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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