異質どうしの対話
花巻市に合併した一市三町を舞台にする本書は、限界集落を抱える自治体行政に多くの示唆を与える。同時に、地元の行政よりも勤め先や子供の教育、親の介護に関心が向きがちな都市住民に強い気づきを与えてくれる。都会を離れて自然と人情豊かな地域への移住希望者にも。
田舎の集落では最後の一人がうんというまで話し合う「総意」を合意形成の旨とする。各自の経済的負担を伴う合意ならなおさらだ。株式会社の意思決定や実質的合意を他人に委ねがちな毎日を過ごしているとまどろっこしいだろう。これに対して、最初の一人で発進する「創意」は都会の長所かもしれない。一人一人が思いついた途端に行動したら場所で構成員が決まる地域コミュニティは崩壊する。スピードが何よりも大切という価値観を捨てて、対話と相互理解を通じて、自分の意思が集落の運営に反映されているという信頼感を育むことが住民自治の基礎となる。
都会と田舎とを問わず、勤め先の組織のありようにも関わる哲学的なメッセージを本書の結びに編み出してくれた筆者の思いに、感謝と敬意を表したい。
ドラえもんの妻