心の薬剤師
大手カード会社のテレビCMが、プライスレス(お金では買えない=大変貴重な)という言葉を盛んに流したのはいつだったか。世の中には値踏みを拒むような物事も確かにあって、それらを壊したり、失くしたりした場合が「お金では済まない」状況である。命とか愛とか信頼とか、大切な人とか、その人との至福の思い出とか。
東畑さんが説くのは、そうした際の心の対処法だ。すなわち「お金の代わりに時間を使うべし」と。時が癒してくれること、あるいは歳月にしか癒せないことはある。それは、感情の動物である人間だけに天が与えてくれた処方箋にもみえる。臨床心理士の仕事は、その意味で「心の薬剤師」に近いのかもしれない。
ライターとしてカウンセリングは「ネタ」の宝庫だろうが、守秘義務もあるから書き飛ばすわけにはいかない。最大限プライバシーに配慮したうえ、一般化できる教訓や成功(失敗)例をうまく抽出して再構成しなければならない。ただし、具体性をある程度残さないと信憑性が弱まるし、そもそも読み物として面白みに欠ける。
その点、上記作はなかなか良いあんばいで、書き手としての才を感じさせた。
冨永 格