坂本冬美「ブッダのように私は死んだ」
ポップス系の情念の歌

富士フイルムが開発した糖の吸収を抑えるサプリが500円+税で

ウイッグをつけて撮った写真

初のウイッグを使って、この曲のために写真をとった坂本冬美(ユニバーサルミュージック提供)
初のウイッグを使って、この曲のために写真をとった坂本冬美(ユニバーサルミュージック提供)

   歌い方で気づいたことが二か所あった。ひとつは、彼女が「ねえ、あなた」を呼びかける部分だ。

骨までしゃぶって私をイカせた
ねえ、あなた
嘘だと気付いた時には
捨てられたのね

   「ねえ、あなた」がいい。

   どこか微笑んでいるような軽さ。捨てられた女の恨みつらみが全くない。「捨てられた」ことより「イカせた」ことを愛おしんでいるかのような女っぽさ。彼女は、こう言った。

   「そこは、桑田さんの指定だったんです。私は演歌風に崩しちゃったんですけど、そこはきっちりリズムに乗って歌わないといけないっておっしゃって。そこをリズムに乗らないとサビにいけない。計算されてるんだな、と思いました」

   サビにも仕掛けがある。

ゲリラ豪雨(あめ) 落雷(いなびかり)
故郷へ帰してくれ
他人を見下した目や
身なりの悪さは赦す
ただ、箸の持ち方だけは
無理でした

   男歌風に歌いあげた「ゲリラ豪雨」の勢いと対照的な「箸の持ち方」に笑ってしまった人もいるかもしれない。

   彼女はこう言った。

   「魂が怒ってるという表れが『ゲリラ豪雨』なんでしょうね。きっと付き合っていたころから箸の持ち方はダメだったんだと思うんです。でも、好きだから気にもしなかったし言わなかった。魂になった今だからさらっと言える。そういうことが歌えば歌うほど分かってくるんです」

   主演・坂本冬美。彼女のアーティスト写真も、それ風に、という桑田佳祐の希望だったそうだ。生まれて初めてウイッグをつけて帽子を被って写真を撮った。ミュージックビデオでは、もろ肌を脱いだ背中をさらしている。

   「ディレクターと話していて、優等生な冬美ちゃんもいいけど一皮むけないといけない。情念的な演歌には『夜桜お七』がある。ポップス系の歌では『また君に恋してる』がある。ポップス系の情念の歌がない、と言われていた矢先に桑田さんがポンと出してくださった。自分でも殻を破った、という感じです」

   桑田佳祐・作「歌謡サスペンス劇場」。レコーディングの時、彼女の緊張を和らげようと、彼もスタッフも全員「冬美Tシャツ」を着こんでいたのだそうだ。

   彼にしか書けない曲であり、彼女にしか歌えない歌。「ブッダのように私は死んだ」は、この後、どんな語られ方をしてゆくのだろうか。

(タケ)

タケ×モリ プロフィール
タケは田家秀樹(たけ・ひでき)。音楽評論家、ノンフィクション作家。「ステージを観てないアーティストの評論はしない」を原則とし、40年以上、J-POPシーンを取材し続けている。69年、タウン誌のはしり「新宿プレイマップ」(新都心新宿PR委員会)創刊に参画。「セイ!ヤング」(文化放送)などの音楽番組、若者番組の放送作家、若者雑誌編集長を経て現職。著書に「読むJ-POP・1945~2004」(朝日文庫)などアーティスト関連、音楽史など多数。「FM NACK5」「FM COCOLO」「TOKYO FM」などで音楽番組パーソナリテイ。放送作家としては「イムジン河2001」(NACK5)で民間放送連盟賞最優秀賞受賞、受賞作多数。ホームページは、http://takehideki.jimdo.com
モリは友人で同じくJ-POPに詳しい。

姉妹サイト