桑田佳祐に手紙を書いたら...
彼女は、桑田佳祐に手紙を書いた。
「年が明けて、35周年の方向を考えようという話し合いの時に、ディレクターから、「これからの夢、みたいなやりたいことはある?」と聞かれて、思わず桑田さんに曲を書いて欲しいと言ってしまって。「ディレクターは言葉には出さなかったんですが、目が『無理だよ』と言ってました(笑)。無理を承知で手紙を書いてみようということになりました」
便箋複数枚に綴られた思い。中学生の時の初恋のことやサザンとの出会い、紅白での感動、そして、無理を承知の曲の依頼。彼から返事が来たのはその数か月後だった。
「指定された場所に行ったら、桑田さんがいらして、『お忙しい中時間を作って頂いてありがとうございます。お返事遅くなってすみません』って言われて。もう、恐縮ですよ。お断りされるのかなと思ったんです。どういう気持ちで手紙を書いたのかとか聞かれるのかなと思ったら、数分後に『こんなもの書いてみました。どうでしょうか』って。タイトルを見て、え、どういう歌なんだろうか。頭の中がぐるんぐるんしている時に、『歌謡サスペンス劇場の主人公を演じてください』って。そしてまた数分後に『じゃ、音を聞いてください』。もう全部出来上がってました。それを二、三度聞いて、ここはこういうイメージでっておっしゃってくださって。レコーディング、よろしくお願いしますって終わったんです」
彼女が指定された場所は、東京・青山のビクタースタジオ。桑田佳祐がサザンオールスターズのデビュー以来使い続けている「聖地」。彼女もそれを知らないはずがない。そこに憧れの人がいる。しかも、無理を承知で書いた手紙に応えて自分のための曲を用意して待っていてくれた。「わずか3、40分」が「現実なのか夢なのか、わからないくらいだった」というのも率直な心境だろう。
「ブッダのように私は死んだ」は、大衆音楽の「掟破り」ともいえる表現がいくつもある。その最たるものは、歌の主人公が「死者」であることだ。
テレビに出ている人気者に愛されて棄てられ、その手で殺められた女性が、「土の中」で目を覚ます。「闇」の中で自分が置かれた状況やそこに至るまでに思いを馳せる。つまり、愛する男に殺された女の恨み言、と言ってもいい設定になっている。
でも、曲調は重くない。
むしろ、ユーモラスに思える箇所もある。
「愛してる」って言うから
危ない橋も渡った
お釈迦様に代わって殴るよ
「お釈迦様」という固有名詞。「神様・仏様」という使い方はあっても、そのものが登場することは多くないように思う。
「今までも歌の中でいろんな女性を演じてきましたけど、これは『魂』の歌、なんですよね。『私』はこの世にいない状態。『魂』を演じるのは生まれて初めてでしたね。最初は『怒り』みたいな感情かと思って歌ってたんですけど、そうじゃないと思うようになって。恨み言は言ってるようで言ってないんですね。殴ってやりたいと思ってるんだけど、私じゃないよ、これはお釈迦様が怒ってるんだからね、代わって殴るよ、って言ってるんだと思う。男性を責めない、何ていう愛しい女性、抱きしめてあげたくなる女性なんだと思うようになったんですね」