♪もう帰らない あの夏の日
全身を包み込むよう柔らかなエレキギターの音色と深みのある大人の声音が観客のいないライブハウスに響き渡る。1960年代のグループサウンズ(GS)を象徴する曲、ザ・ワイルドワンズの「想い出の渚」(作詞・鳥塚しげき)のサビの部分だ。夏の渚で交わした甘い恋だったが、それも今は昔。切ない思いが歌詞ににじみ出る。
ザ・ワイルドワンズといえば、GSの先駆けとなる1966年に加瀬邦彦(故人)をリーダーとしてデビュー曲でいきなりヒット、その後も「バラの恋人」「愛するアニタ」などで人気を博したバンドだ。71年に解散し、81年に再結成、2015年に加瀬が亡くなってからは代わりに次男の加瀬友貴が父親が得意とした12弦ギターを弾き、バンドに加わっている。
加瀬邦彦亡き後もメンバーは輝く
ここのライブハウスは東京・銀座のコリドー通り、帝国ホテル近くのビルにあるケネディハウス銀座。2020年11月18日、ザ・ワイルドワンズによる無観客の有料ライブ配信(3500円)が行われた。
バンドのメンバーは加瀬と途中加入した渡辺茂樹(Key)が他界した。ギターの鳥塚しげき(73)、ドラムスの植田芳暁(72)、ベースの島英二(73)が健在で、往年の輝きは失っていない。ライブは「ドゥユーウォナダンス」に始まり「デイドリームビリーバー」など誰でも知る海外の名曲を奏でた。息の合ったトークをはさみながら、その日のメインに突入した。
「今日はファンのために昭和に流行った曲を中心にポップスのメドレーをお届けする」(鳥塚)
坂本九の「見上げてごらん夜の星を」に始まり、ピンク・レディーの「UFO」、フィンガー5の「恋のダイヤル6700」、サザンオールスターズの「いとしのエリー」、SMAPの「夜空ノムコウ」などのメドレーを熱唱した。曲が繰り出されるたびにメンバーのテンションは上がっていく。
メドレー最後、西城秀樹の「YOUNG MAN (Y.M.C.A.)」ではメンバー全員がポンポンを両手に持ち、YMCAのダンスを踊っていた。とても平均年齢が73歳とは思えない躍動ぶりだ。
そしてライブのラストは冒頭の「想い出の渚」となって、演奏を終えた。
と思っていたら、スタッフからアンコールの拍手が。
「2曲いきますよ」と鳥塚の汗だくの顔から笑みがもれる。
で、「ヘイヘイブギ」に「また会える日まで」を一気に歌い上げた。ここまでメドレーを1曲として、全13曲、1時間あまり。
途中で植田芳暁が「寒気、発疹、発熱が全身を巡っている状態(笑)」などと冗談交りに言ったが、観客のいない椅子とテーブルを前にステージでは力強い演奏が最後まで続いた。
演奏の後はメンバーによるトークショー。今回のテーマは途中で参加することになったチャッピーことキーボード担当の渡辺の話題。加瀬が司会をして、4人の絶妙のトークが30分ほど続いた。