日本大学芸術学部映画学科の学生たちが毎年12月、独自に企画運営している映画祭が10回目を迎える。今年のテーマは「中国を知る」。中国国内だけでなく香港、台湾の作品や、戦前の日本の作品など15本が上映される。
香港の民主化運動に触発
この映画祭は、東京・渋谷のユーロスペースを会場に、学生たちがテーマを決め、作品をラインアップ、ゲスト出演者を招くなどして約1週間にわたって開催されてきた。第一回は、「映画祭1968」。その後、「新・女性映画祭」、「監督、映画は学べますか?」、「ワーカーズ2014」、「ニッポン・マイノリティ映画祭」、「宗教映画祭」、「映画と天皇」、「朝鮮半島と私たち」、「スポーツの光と影」と回数を重ねてきた。時代状況を踏まえたテーマ設定をしていることから、マスコミに大きく取り上げられることも多い。天皇関連の作品を集めた「映画と天皇」などは、ちょうど天皇の代替わりの時期と重なったこともあり、全国紙の社会面トップで紹介されたりもした。
今回の「中国」というテーマのきっかけになったのは、香港の民主化運動だ。日大の学生たちと同世代の若者が立ち上がり、激しい抵抗運動を繰り広げている様子がメディアで報じられた。否が応でも気になる。ほかにも領土問題やコロナ、米国との覇権争いなど中国がニュースで取り上げられない日はない。映画を学ぶ学生たちも、この「近くて遠い大国」を、大学生という視点から知りたいと思い、「中国」を今回の映画祭のテーマにしたという。
戦争関連が多い
上映される作品は多彩だ。
まずは日中関係を戦前までさかのぼる。日中戦争を題材にした亀井文夫監督の記録映画2作品が並んでいる。検閲により公開禁止となった幻の名作『戦ふ兵隊』(1939)と、戦意高揚を目的に製作された『上海 -支那事変後方記録-』(1938)だ。さらには第二次世界大戦終結後、中国に残留し内戦に巻き込まれた日本兵を巡る「日本軍山西省残留問題」に焦点を当てた池谷薫監督の『蟻の兵隊』(2005)なども。清朝最後の皇帝溥儀の生涯をイタリア人のベルナルド・ベルトルッチ監督が描いた大作『ラストエンペラー』(1987)や、南京事件をドイツの視点から描いた『ジョン・ラーベ~南京のシンドラー~』(2009)なども戦争関連だ。
香港の民主化運動に刺激されたこともあり、香港の雨傘運動を描いた『乱世備忘 僕らの雨傘運動』(2016)も上映される。日本統治時代の台湾を映し出したホアン・ミンチェン監督『湾生回家』(2015)、台湾の候孝賢監督が一青窈、浅野忠信共演で撮影した『珈琲時光』(2003)、新宿区議選挙に立候補した「歌舞伎町案内人」、李小牧氏の選挙活動を追った『選挙に出たい』(2016)、柳町光男監督が早い時期に在日中国人を描いた『愛について、東京』(1992)、日中合作映画『未完の対局』(1982)などもある。ロウ・イエ監督の『天安門、恋人たち』(2006)は、中国では上映禁止になっていることもあり、日本にいる中国人の間では関心が高い。
日中関係はしばしば軋轢を引き起こすが、日本から見ると、中国は今や最大の貿易相手国だ。日本在留の中国人も、『日本の「中国人」社会』(日経プレミアシリーズ)によると、この20年で約3倍、100万人前後に膨らんでいる。中国の経済成長は近年目覚ましく、『清華大生が見た 最先端社会、中国のリアル』(クロスメディア・パブリッシング)によると、受験競争の厳しさは日本の比ではない。アジアの大学ランキングでは、清華大学がトップに躍り出ている。
映画祭『中国を知る』は2020年12月12日~18日、会場はユーロスペース(東京都渋谷区円山町1-5 KINOHAUS3F)。主催は日本大学芸術学部映画学科映像表現・理論コース3年「映画ビジネスⅣ」ゼミ。チケットや上映スケジュールなどは公式サイトで確認を。