日米地位協定に「大いなる誤解」
そして、在日米軍の基地使用、行動範囲、米軍関係者の権利などを保証したものが、「日米地位協定」である。この地位協定についても、頭ごなしの批判の著作は多いが、冷静かつ学術的な考察で一般向けに書かれたものとして、「日米地位協定~在日米軍と『同盟』の70年」(山本章子著 中公新書 2019年5月)がある。本年の石橋湛山賞(第41回)を受賞した好著である。財団は授賞理由について、「本書は、在日米軍の駐留に視点を据えて戦後の日米関係史を概説しています。山本氏は特に、日米両政府が60年の日米安保改定、地位協定締結の際に、取り交わした『日米地位協定合意議事録』を問題視します。2004年まで非公開だった『議事録』は民主主義国家間の条約や協定の正統性を著しく阻害すると主張。日米同盟関係には深い闇のようなものが感じられるが、それはこの『合意議事録』によるところが大きく、また米軍への『"過剰な優遇"の根源』であると指摘します。日米同盟の真価が問われようとするとき、国会で承認されていない『合意議事録』を撤廃することが喫緊の課題だと山本氏は主張します。深い信頼関係が土台になければ強固な同盟関係は成り立たないからです。本書は日米同盟を重視しつつ、米国に対しても、非は非と主張し続けた石橋湛山の名を冠する本賞にふさわしいものといえます。」としている。
山本氏は、ちまたでいわれる「(在日米軍について話し会う)日米合同委員会が諸悪の根源」、「ドイツやイタリアと比べて不利」という言説には大いなる誤解があること、日米安保条約は、同盟関係と米軍駐留が切り離せない構造になっているため、米軍に不利になるような「日米地位協定」の見直しは、米軍の日本撤退、同盟関係の解消につながりかねず、日米安保条約を肯定する世論が多い中、日本政府は見直しのリスクをとれないことなどを冷静に指摘している。
既存の条約や法律論議を超えた、21世紀の日米安全保障協力の在り方を考えるためにも、まずは、これらの著作で足元を固めたい。
経済官庁 AK