安保条約を冷静に解釈した本は多くない
黒井氏が最後に指摘するように、日本は「情報力」をあげなくてはならない、また、安全保障について相手とゼロサムになる場合も多いことを忘れず安易に受身的な協調に流れるべきでない、との指摘は、これからの日本に必要な戒めだろう。
黒井氏がいう日本の安全保障の本丸、日米同盟の根拠は、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」(日米安保条約)である。極めて重要な条約で、これを廃止の方向で批判する著作はあまたあるが、今年は条約締結から60年の節目というのに現実の条約の解釈を冷静に考察した本は残念ながらなかなかみることはできない。日米安保条約の逐条解説は、外務省のホームページにあるが、一般向けにわかりやすく解説したものはなかなかない。手ごろな「はじめて読む日米安保条約 ― 日本の安全と繁栄を支えた10の条文」(坂元 一哉監修・解説 宝島社 2016年5月)は現在入手困難だ。日米安保条約は、「物と人との協力」といわれる。21世紀の日米安全保障協力の在り方を考えるための準備作業として著されたのが、「日米同盟の絆」(坂本一哉著 有斐閣 2000年)である。著者の恩師・国際政治学者高坂正堯の思い出に捧げられ、2000年のサントリー学芸賞を受賞した名著である。本年4月に増補版が出された。ここで、物とは「基地」で、人は「米軍」を指す。