ラヴェルの「ピアノ三重奏曲」を弾いていて、感じることがあります。
静かなテーマから始まるけれど、即座に3人で圧倒的な盛り上がりをみせ、また、ソナタ形式で書かれているものの、再現部では微妙に和音を変化させている・・などの工夫が凝らされた第1楽章。各楽器に大変高度な技巧が要求され、スケルツォ的な圧倒的テンポの速さで演奏される途中で、「弦楽器とピアノが違う拍のカウントを行い、それが重ねられる」というこれまた凝りに凝ったトリオ部を中間に挟む第2楽章。そして、パッサカイユという形式で、ゆったりと反復される低音の音形がひたすら続き、その上に巨大なモニュメントを築くがごとき盛り上がりを見せる、祈りに満ちた第3楽章。
第4楽章は、少し慌てて書いた?
これらの3楽章に対して、表面的には華やかで、盛り上がりは圧倒的なのだけれども、少し強引に終わりを迎える最終第4楽章は、「技巧的工夫」という意味では、ラヴェルにしてはあっさり・・という印象が、ぬぐえないのです。
大天才ラヴェルに対して、まことに申し訳ないのですが、率直に言うと、「第4楽章は、少し慌てて書いた?ちょっと強引にまとめた・・?」という印象があるのです。
ラヴェルは、自作曲に関しては大変な遅筆でした。彼は、ムソルグスキーのピアノ曲「展覧会の絵」を管弦楽化したのでも有名ですが、そのような他人の曲のオーケストレーションなどの編曲は迅速だったのですが、オリジナルの作曲には推敲に推敲を重ね、かなりな時間をかける方だった、と知人の楽譜出版商やバレエプロデューサーなどの証言があります。「ラヴェルにオリジナル曲を依頼するときは時間的余裕を持って頼むべし。」おそらくこれは事実でしょう。
しかし、そのラヴェルが、この大規模な「ピアノ三重奏曲」・・・全4楽章からなり、演奏には30分近くかかる大曲をたったの1か月弱で仕上げた、というのは彼にしては異例の速さです。友人のストラヴィンスキーなどにあてた手紙で、「5週間で5か月分の仕事をした」と書いています。