母の味はオムレツ 阿川佐和子さんが忘れない、大作家を喜ばせた一品

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貴重な証言にも

   1961年創刊のミセスは、文化出版局が発行する「大人の女性」のためのライフスタイル情報誌。専業主婦を含め、40~50代が主な読者層とされる。

   「母の味」は婦人誌の定番企画だろう。それを振り返る12人の子どもたちは、「娘」が阿川さんのほか益田ミリ、平松洋子、森下洋子、石田千、川上弘美、後藤しおり、師岡カリーマ・エルサムニー、平野恵理子の各氏、「息子」は中村獅童、為末大、鳴戸勝紀(元大関・琴欧洲)の各氏。読者と重なる世代を中心に、なかなか多彩な顔ぶれである。

   阿川さんの短文を読んだ人は、大正生まれの父親に、見方によっては楽しそうに振り回される母子の姿を想像したに違いない。そして、家庭における文化勲章受章者の姿を垣間見て、身内は大変だと同情したかもしれない。多少の誇張を割り引いても、こうした男性はもう少ないはずで、その意味では貴重な証言にもなっている。

   舌が肥え、気難しそうな父親が最終的に満足するのが、卵だけのプレーンオムレツだった、という意外性もいい。ここで手の込んだ、あるいは高価な一品を求めるような展開では、父親が本当の悪役になってしまう。

   「ケチるなよ」と言っておきながら、少なめのバターに歓喜する大作家。「母の味」のマジックではあるのだが、父親のほうも負けずに「いい味」を出している。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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