オチを意識して書く
火をおこせるようになって男は一人前、といった言説を何度か見聞きした覚えがある。昨今は「男も女も...」と読み替えるべきかもしれない。子どもの目の前で火をおこしてみせ、「どうだ、父さん(母さん)すごいだろ(すごいでしょ)」と悦に入る大人の様子は「キャンプあるある」の上位にくるのではないか。
火おこしの技術は松重さんが書く通り、とくに秋冬キャンプではキホンのキ、単独行なら死活問題ともなる。スギ枯葉などの焚き付けを拾い集め、おこした火を細い薪から太い薪へと少しずつ育てていく。都会の家族ならまたとない異体験となるはずだ。
松重さんは仕事現場に伝わる「暖のとりかた」から書き起こし、火つながりで家族キャンプの思い出話に筆を進める。「ガンガン」の名人が「女性スタッフ+チャッカマン」に取って代わられたように、父親の見せ場はどんどん少なくなっていると。便利だけど何だか寂しいなあ、といったノスタルジーがにじむ展開である。
そして、最後はよくある自虐ネタで軽く落とした。プロのライター以外で、オチを意識して書いている人は貴重な存在だ。なかなかのサービス精神だと思う。
連載「演者戯言」をまとめた初の著書『空洞のなかみ』が、毎日新聞出版から10月24日に刊行される。松重さんの筆力を確かめたい向きは、そちらでぜひ。
冨永 格