火おこしの技 松重豊さんは五十肩が怖くて「ぶん回し」を自重する

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オチを意識して書く

   火をおこせるようになって男は一人前、といった言説を何度か見聞きした覚えがある。昨今は「男も女も...」と読み替えるべきかもしれない。子どもの目の前で火をおこしてみせ、「どうだ、父さん(母さん)すごいだろ(すごいでしょ)」と悦に入る大人の様子は「キャンプあるある」の上位にくるのではないか。

   火おこしの技術は松重さんが書く通り、とくに秋冬キャンプではキホンのキ、単独行なら死活問題ともなる。スギ枯葉などの焚き付けを拾い集め、おこした火を細い薪から太い薪へと少しずつ育てていく。都会の家族ならまたとない異体験となるはずだ。

   松重さんは仕事現場に伝わる「暖のとりかた」から書き起こし、火つながりで家族キャンプの思い出話に筆を進める。「ガンガン」の名人が「女性スタッフ+チャッカマン」に取って代わられたように、父親の見せ場はどんどん少なくなっていると。便利だけど何だか寂しいなあ、といったノスタルジーがにじむ展開である。

   そして、最後はよくある自虐ネタで軽く落とした。プロのライター以外で、オチを意識して書いている人は貴重な存在だ。なかなかのサービス精神だと思う。

   連載「演者戯言」をまとめた初の著書『空洞のなかみ』が、毎日新聞出版から10月24日に刊行される。松重さんの筆力を確かめたい向きは、そちらでぜひ。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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