世間と同調圧力 鴻上尚史さんは「謎ルール」の多さで場の空気を測る

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旧弊一掃のチャンスなのに

   コロナ禍では、さまざまな場面で同調圧力が語られた。マスク着用や咳エチケットなどの小習慣にはじまり、不要不急の移動の自粛、望まない休業や営業短縮などなど。世間の目を気にして、周囲の空気を読んだうえでの行動が感染予防のスタンダードとなった。同調しない「不届き者」をやり玉に挙げる「自粛警察」も暗躍した。

   同調圧力と相互監視。勝手な行動を許さないムラ社会の残滓が残り、「個」あるいは「個人」が十分に確立していない日本ならではの現象、といえる。もともとあった見えない圧力がコロナで狂暴化し、可視化されたというのが鴻上さんらの見立てだ。

   災害時に暴動や略奪が起きにくいなど、「世間」の存在がプラスに働くこともある。非常時にはムラの掟も悪いことばかりではないのだろう。しかし少数意見や異論、それを唱える少数派の差別、無駄や不合理といった副作用も大きい。そして何より、ひとたび多数派が間違えれば再考や自省の機会はなく、ムラ全体が衰退と破滅に向かう。

   オンライン会議という新たな日常に、早くもあれこれ「謎ルール」がまとわりついているのは象徴的だ。考えようでは不合理な旧弊を一掃するチャンスなのに、そうはならない。新たなルールは、古いものとどこかでつながっているほうが安心なのだ。

   著書のまえがきで、鴻上さんはこう記している。

〈「同調圧力」とは、「みんな同じに」という命令です。同調する対象は、その時の一番強い集団です。多数派や主流派の集団の「空気」に従えという命令が「同調圧力」です〉

   多数派についていって、本当に大丈夫なのだろうか。今いちばん強い集団に従うことが、はたして自分や家族の幸せにつながるのか。そう問い直すことから始めたい。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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