「わかる人にしかわからない」
新作アルバム「JOKER」は、前作の「TOUGH」以来約3年ぶり。今年から来年にかけてがデビュー20周年ということもあるのだろう。今まで歌ってきた曲を引き受けた返歌のような曲から、宮本亜門が詞を書いた「イノサン・ミュージカル」の劇中歌「無垢なるもの」のような新しい面を感じさせる曲もある。全14曲中、彼女自身が詞を書いた曲が6曲ある。それらの曲には、代表曲でしか彼女を知らない人にとっては、思いがけない一面が感じ取れるのではないだろうか。
それは「毅然とした意志」だ。他人の都合には流されない。自分の意見はきちんと言う。「都合よく入るしごとに 都合いい女になってる そっちがその程度ならのってやろうじゃない」「遊びなら遊びでハッキリしな 下手な嘘」(「Good Bye」)、「あの手この手で卑怯者だらけ 口裏合わせの作戦会議 そちらの正義は何 きかせて?」(「Justice」)。
その一方で、思うような答えを手にできずに泣いて叫んで声を枯らしている人や、眠れぬ夜を過ごしている人を包み込むような歌ももちろんある。彼女が、どうしても加えたかった曲という、やはり彼女が詞を書いている「ドミノ」は、自分の価値を見つけられない人への視線は優しさに溢れている。
「自分でもほんとはどっちなんだろう、どれが自分なんだろうと思う事がある(笑)。でも、誰でも辛い時期はあると思うし、そういう時期に寄り添う、そういう時のことは忘れるのが一番いい、ということが書きたかったんだと思います」
2013年、中島みゆきが、詞曲を書いて彼女に提供した「愛詞(あいことば)」には、こんな一節がある。
「傷ついたあなたへ 傷ついた命へ
わかる人にしかわからない
それでいい愛詞(あいことば)」
アルバムタイトルの「JOKER」には、「切り札」「復活」という意味がある。
誰でもがそうであるように、自分のことを分かってほしいと願っている。それが叶わないから傷つき、嘆き立ち尽くす。
もし、分かる人にしかわからなくていい、と思えたらもっと強くなれるだろうし、人間関係も世の中の見え方も違ってくるかもしれない。そう思えるための「切り札」のようなアルバムと言っていいのではないだろうか。
(タケ)