ドローン(動かない人)とチャンター(歌う人)
1つのメロディーに対して、オクターヴの音程関係や、完全5度の位置にある音を即興的に加えていく・・オルガヌム、といわれるよばれる技法が9世紀ごろから盛んになります。
同時に、主メロディーに対して、一緒に動くのではなく、動かない、ずっと持続する音を付け加える、という音楽も試されました。同じ音をずっと伸ばす・・というのは歌で行うとものすごく退屈なので、このパートは楽器で演奏されることが多くなりました。いまでも、「動かない1つの音を伴奏に、上でメロディーが自在に動く」という形式は、バグパイプの音楽などに残っています。
同じ音高で持続する音は「ドローン」とよばれましたが、バグパイプの通奏管はまさに「ドローン」と名付けられています。現代の無人飛行物体「ドローン」は動き回るので、ちょっと対象的なネーミングです。ちなみに無人機の「ドローン」の語源はオスの蜂で、羽音にプロペラ音が似ているから、というものだそうです。バグパイプの旋律を吹く方の主唱管は「チャンター」と呼ばれています。チャンターはチャントする人、すなわち「歌う人」ですから、ドローン(動かない人)とチャンター(歌う人)というネーミングに、中世の「楽譜誕生前後の多声部音楽」の名残がみられるのです。
そんな、「ハーモニーの黎明期」に、楽譜は発明されたのです。当然、多声部音楽は更に複雑化します。そして、単に「2つのメロディーを重ねる」という音楽から、「ハーモニーでメロディーを伴奏していく」という今日我々が耳にするほとんどの音楽スタイルを作り出すことになります。
楽譜の発明という革命が、本格的なハーモニーの誕生という革命を後押ししたのです。
本田聖嗣