楽譜は何を伝えているか(13)

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   音楽を記す方法は世界各地にありましたが、いずれも完全とは言い難いスタイルのもので、11世紀イタリアで発明された、現代につながる「楽譜」は、やはり一頭地を抜く発明でした。後に五線譜となる複数本の線を引くことによって、相対的でなく、絶対的な音の高さを示すことができ、曲を知らなくても旋律を楽譜のみから再現することができました。リズムやテンポも次第に記すことが可能となり、「これさえあれば、曲の学習に、その曲を熟知している指導者が必ずしも必要ではない」という段階まで来ることができたのです。

  • 簡単な音を重ねる歌の音楽は、響きがオルガンに似ているからということで『オルガヌム』と呼ばれた。写真は、バッハのオルガン曲で最も有名な、衝撃シーンなどで流れる『トッカータとフーガ』冒頭の楽譜。楽譜がなければ、この名曲も現代に伝わらなかった
    簡単な音を重ねる歌の音楽は、響きがオルガンに似ているからということで『オルガヌム』と呼ばれた。写真は、バッハのオルガン曲で最も有名な、衝撃シーンなどで流れる『トッカータとフーガ』冒頭の楽譜。楽譜がなければ、この名曲も現代に伝わらなかった
  • 簡単な音を重ねる歌の音楽は、響きがオルガンに似ているからということで『オルガヌム』と呼ばれた。写真は、バッハのオルガン曲で最も有名な、衝撃シーンなどで流れる『トッカータとフーガ』冒頭の楽譜。楽譜がなければ、この名曲も現代に伝わらなかった

「音を重ねる」という音楽の進歩を導き出した

   では、その楽譜が音楽に逆に与えた影響はなんだったか? 記憶だよりだった音楽を記すことが可能になったため、より長時間の曲が作られたり、口伝だと途中で改変される可能性があるものを、紙に記すことによって保存できるわけですから、「作曲」の重要性が高まりました。

   しかし、おそらく、欧州発の楽譜の最大の功績は、「音を重ねる」という音楽の進歩を導き出したことでしょう。口伝で音楽を伝えていた時代は、音楽はほぼメロディーだけの単旋律の単純なもので、伴奏があったとしても、とてもシンプルなものだったはずです。複雑なものを記すことができるようになったからこそ、「作曲家」は、メロディーを工夫する「横方向」の工夫だけでなく、音を重ねる「縦方向」にも気を配れるようになったのです。そんな複雑な音楽は、従来なら「覚えきれない」として敬遠されてきましたが、なにしろ「記すことができる」わけですから、多少の複雑さは許容されたのです。

   ところが、これも、一筋縄ではいきませんでした。つまり、現代の「ハーモニー」に到達するまでには、気が遠くなるような長い時間がかかったのです。

本田聖嗣プロフィール
私立麻布中学・高校卒業後、東京藝術大学器楽科ピアノ専攻を卒業。在学中にパリ国立高等音楽院ピアノ科に合格、ピアノ科・室内楽科の両方でピルミエ・ プリを受賞して卒業し、フランス高等音楽家資格を取得。仏・伊などの数々の国際ピアノコンクールにおいて幾多の賞を受賞し、フランス及び東京を中心にソロ・室内楽の両面で活動を開始する。オクタヴィアレコードより発売した2枚目CDは「レコード芸術」誌にて準特選盤を獲得。演奏活動以外でも、ドラ マ・映画などの音楽の作曲・演奏を担当したり、NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」や、インターネットクラシックラジオ「OTTAVA」のプレゼンターを務めるほか、テレビにも多数出演している。日本演奏連盟会員。

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