新型コロナウイルスにより、多くの事業者が経営面で苦戦している。不況の影響で、創造・表現することを生業とする「クリエイター」も、活動の機会が減っている。
そうした活動の「場」自体を創造しようと奔走するクリエイターがいる。若手実力派の映像作家・手描きドットアニメーターの山下諒さんだ。2020年10月4日にユーチューブ上で開催する「クリエイターオンライン花火大会」を企画。初のイベント主催にかける思いを取材した。
仕事はしていたけど「一銭も入らなかった」3月
山下さんはこれまでに、人気テレビアニメ「ポプテピピック」の中に登場するゲーム風映像や、歌手・小林幸子さんが19年11月にセルフカバーした「ポケットにファンタジー」のミュージックビデオ制作に携わってきた。東京造形大学在学中から大学祭や卒業制作などで数々のアニメーションを手がけており、リアルイベントを通じて得る「人の縁」に助けられてきたという。
しかしコロナ禍で、各種イベントが延期・中止を強いられ、仕事の機会を失ったフリーランスのクリエイター仲間が苦しんでいると語る。
売り上げが減っているのはクリエイターに発注する側も同じだ。山下さんは、クリエイター仲間から「企業が広告に用いる画像や映像制作の依頼を、あまりもらえなくなった」とよく聞く。それ以上に「置かれた状況が厳しく、かわいそう」と感じているのが、卒業校の在校生たちだ。多くの人が集まる芸術祭や講義の多くがオンライン開催になり、人との接点を持ちにくくなっていると耳にする。
「こうなると就職やビジネスのチャンスをなかなか見いだせない。しかも大学へ行けないと学内に保管してある、制作に必要な機材が使えません。個人で買うには高額な機材が多いのです」
舞台俳優のようなリアルな活動の場が必要な職業に比べれば「お金を生み出す機会がある」と話す山下さん自身も、仕事をしていたにもかかわらず「今年の3月は一銭も入りませんでした」。支払い時期の関係もあったが、依頼数や、生み出した作品を多くの人に見てもらう場が減った影響があるという。
「収益度外視」で恩返しだ!
では、山下さんは「クリエイターオンライン花火大会」でもうけを得ようとしているのか。直球で聞くと、「収益は完全に度外視しています」。今年は花火大会の中止が相次ぎ、「悔しいので、やりたかった」と個人的な思いつきが発端だったという。さらに、こう続けた。
「自分の名が売れたきっかけは、『ポプテピピック』の仕事があったから。そこで多くのクリエイター気質の人たちに救ってもらったと、恩義を感じています。それをクリエイター業界に還元したい。実力があるのに、ただ縁と機会がないだけで評価されていない人は多い。勝手な正義感ですが、そういう人たちが表現し、新たに人と出会える場を作りたいのです」
クリエイターだけの内輪イベントにならないよう工夫も施した。「オンライン花火大会」は誰でも、オリジナルの線画イラストを応募するとクリエイターが「デジタル花火」に仕立ててオンライン上の夜空に打ち上げてくれる。「色塗り不要で、線画だけなら一般の方も参加しやすいのでは」と山下さん。9月16日時点でイラストは500枚近く申し込まれており、手応えを感じている。
「まずはコロナ禍だからできることをオンラインの強みを生かして形にしたかった。フリーランスはただチャンスを待つとか、振られた仕事をやるばかりでなく、『思いつきを絶対にモノにしてやる』と必死に食らいつく姿勢が大切。今回のイベントが多くのクリエイターにとって、『何か』に繋がるチャンスになってくれたら」
山下さんは、こう願っている。
山下諒(ヤマシタ・マコト)
映像作家・パフォーマー。
代表作に「ポプテピピック Pop team 8bitパート」、「ポケットにファンタジー【幸子とミク version】」ドット絵パート、「ギャルと恐竜」ロゴアニメ/恐竜くんを探せ!/恐竜ショートショート、「Eテレ 沼にハマって聞いてみた ぬしモンファンタジー」などがある。
現在はクラウドファンディング企画の「ドット絵ミステリー(仮)」で初監督を務めることが決まった。