まずは音を出せ 坂口恭平さんは「死にたい」人に呼びかけ続ける

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自死は10年連続減少

   警察庁によると、日本の自殺者は金融危機があった1998年に急増して3万人台に乗り、2009年まで高原状態が続いた。翌2010年からは10年連続で減少し、昨年は20169人。統計をとり始めた1978年以降で最少で、ピーク(2003年=34427人)に比べると4割も減った。減少数には、活動期間がぴったり重なる坂口さんとの電話で思いとどまった人たちも含まれているはずだ。

   今年の自殺者(8月末時点)も前年比5%減で推移しているが、8月(1849人)は首都圏を中心に前年比で246人(約15%)増えた。コロナ禍による生活苦等がどれほど影響したのか、関係省庁が分析を進めている。

   「考え込む前に動こうよ」という坂口さんの助言は、面白いことを見つけた人は簡単に死なないという仮説に基づく。それが説得力を持ち得るのは、筆者が「死にたい」2万人と話してきた実績による。死ぬか生きるかの「現場」を知っているのは強い。自分が自殺に待ったをかけた、という自信やプライドもあろう。

   偶然だが、看護師で僧侶の玉置妙憂さんも、ハルメク10月号のコラムで同じ趣旨のことを書いている。〈ネガティブ思考にとらわれたときは、何も考えず、ただ動き続ければよい...ぐだぐだと頭の中でこねくり回していないで、目の前のことひとつひとつにすべてを注ぎ込んで動くこと〉と。

   「動く」ことで見えてくるものもある。人の身体は不思議なものだ。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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