筆写でも聖書と楽譜では事情が違った
しかし、ここに大きなハードルがまだあります。楽譜が発明された頃、まだ欧州では、印刷技術が発明されておらず、楽譜は全て筆写だった、ということです。
中世欧州の修道院の修道士たちの大きな仕事は、福音書の筆写でした。「手書きで写す」というのはお手のものだったはずです。しかし、聖書という文字を写すのと、楽譜という、いわば「図表のようなもの」を写していくのでは、少し事情が違いました。
そして、それは、次の段階、「楽譜が印刷される」というところで、より一層顕著になるのです。文字だけの文書と、全体のバランスを取らないと見難くなってしまう楽譜では、要求されるスキルが大きく違うのです。
本田聖嗣