アジア開発史とアジアの課題
アジアとは何か、アジアと欧米はどう違うのか、アジアの将来はどうなるか。筆者の永遠のテーマだ。その筆者はADBのエコノミストスタッフとともに「アジア開発史」を執筆し刊行した(年末に日本語版出版予定)。中国やNIESの成長経路を見て、国による介入と行政指導の役割を強調する見方もあるが、筆者は異なる。市場、民間の活力が成長の原動力という見解だ。商業や技術の役割は江戸時代以来日本では大きく、インドのタタ財閥、中国の民族資本も同様の役割を果たしたという。そして政府の機能として6点が重要と指摘する。(1)ルールの策定と執行、(2)道路、警察など公共財の提供、(3)環境など公共の福祉、(4)イノベーションの促進、(5)マクロ経済の安定、(6)所得や資産の分配の公正。なかでも筆者はルールの策定と執行を重視する。
総裁の業績の中で、2018年に発表した「ストラテジー2030」は特筆に値する。途上国の当局、アジアや女性の学者、市民社会グループとの対話を重視して策定された。7つの優先課題((1)貧困と格差、(2)ジェンダー、(3)気候変動、防災、環境、(4)都市、(5)農村開発と食料安全保障、(6)政府の良い統治、(7)地域間の協力と統合)と三つの原則は未来志向だ。
途上国ごとの状況に即した支援をすること、革新的な技術を活用して中進国に貢献すること、そしてADBの専門性を統合して各国に解決策を提供することは、いずれも多くの関係者の賛同を得ていると考える。こうした大胆な改革が行われた原動力は、多くのステークホルダーと真摯に向き合う総裁のリーダーシップではないか。
1960年代のある国際会議では、中国の文化大革命、ベトナム戦争に欧州の関心はなかったという。人権、民主制、市場メカニズムはすべて欧州由来なのだろうか。江戸時代には先進的な市場メカニズムがあった。アジアには幅広く、植民地支配への抵抗があった。
そのアジアが知的な魅力、ソフトパワーを高めることが筆者の提言だ。科学や技術、文化の発展に貢献し、国際的な課題に率先して取り組むアジア。それが、アジアに対する中尾総裁の熱い思いの表現なのだろう。
中尾さんの回顧録が、財務官時代、中国及びアジアインフラ投資銀行との関与を含めて、多くの関係者に読まれ、アジアの将来について考え、議論されることを願いたい。
ドラえもんの妻