力を抜こう 岸見一郎さんは「人生の進路」を重く考えすぎるなと

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出たとこ勝負で

   筆者が言いたいことは何か。一読して腑に落ちた人は相当な読解力の持ち主だ。数回読んでの私の結論は、〈やりたいことが見つかるまで、焦らず自分に正直に生きよう。歳を重ねれば自ずと結果は出る。たとえ結果が出なくてもいいじゃないか〉というものだ。

   つまり、「自分がやりたいことすら分からないような人間は、ろくでもない道に迷い込んでしまうよ」といった「説教」へのアンチテーゼである。

   人生の進路を決めるポイントといえば、いわゆる社会人になる時だろうか。いや、これは終身雇用が常識だった昭和の話で、いまや自発的な転職は当たり前、人生における岐路は無数に現れては消えていく。

   昭和時代に就職した私でさえ、なりたい職業は建築家(小学校)→新聞記者(中学校)→建築家(高校~大学)→新聞記者(就活時)と、わずか二つとはいえ変転したうえ、記者としてもスペシャリスト(専門は経済や欧州情勢)とゼネラリスト(コラム担当)の間を行き来するなど、いわば出たとこ勝負の半生だった。

   若いうち、まあ30代まではなんとかなる。親世代が自分の経験だけで垂れる「アドバイス」は、若い人を混乱させるだけかもしれない。好きにさせてやろうよ...結語「老いも若きも力を抜こう」の意味はそういうことか、と受け止めた。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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