歴史から何を学ぶか
19世紀から20世紀は、18世紀半ばから起こった産業革命により産業が飛躍的に発展するとともに、会計技術も大きく進歩した。法整備等を整え、会計責任を全うすることのできそうな近代的な国家が整ってきた。19世紀の半ば頃、英国や米国で会計の専門家が位置づけられ、会計の専門的な教育も始まった。職業倫理を備え、世間の篤い信頼を得ることが期待された。しかし、それでも、大恐慌やリーマンショックは起きた。企業の会計不正事件は我が国も含め世界のいたるところで起きている。国や地方自治体など公的団体の財政も油断はできない。
筆者は、本書でたどった数々の例から何か学べることがあるとすれば、会計が文化の中に組み込まれていた社会は繁栄するということだという。ルネサンス期のイタリアの都市ジェノバやフィレンツェ、黄金時代のオランダ、18世紀から19世紀にかけての英国と米国、これらの社会では、会計が教育に取り入れられ、宗教や倫理思想に根付き、芸術や哲学や政治思想にも反映されていたとする。
企業が多様化したり大きくグローバルになったりしても、会計技術がどんなに発達しても、大切なのは、会計や財政に携わる人の意識と意志が高く保たれていることで、それが保たれていれば繁栄に、そうでなければ衰退につながるということだろう。現在でも、監査や情報開示は、監査する側とされる側、開示する側とされる側で何かと議論になる。過去の衰退の物語はちょっと油断すると現在でも起きるかも知れない。我々は、強い意志、規律、几帳面さ、勤勉さ、根気を持続させることができるだろうか。
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