外で偶然、倒れている人を見つけた。意識はなく、救命措置を行う必要がありそうだが、もし相手が新型コロナウイルス陽性者だったら。
こんな場面で役立つ広報動画「新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえた心肺蘇生法の手順について」を、兵庫消防署が2020年9月6日に公開した。厚生労働省が制定した「救急の日(9月9日)」を見据えての内容だ。人工呼吸はどうしたらいいのか――。
相手と顔を近づけ過ぎず、飛沫防止も考えて
動画によると手順は以下の通りだ。
(1)倒れている人に近づく前に周囲の安全を確かめる。
(2)倒れている人の肩を軽く叩きながら、大きな声で呼びかけ反応の有無を確認する。
(3)救急車の要請とAED(自動体外式除細動器)の手配をする。
(4)呼吸を確認する。10秒以内で胸とお腹の動きを見て、動いていない場合や普段通りの動きでない場合は「呼吸なし」と判断する。
(5)普段通りの呼吸がなければ、ただちに胸骨圧迫を行う。胸骨圧迫の位置は、胸の真ん中にある縦長の骨(胸骨)の下半分が目安。
特に、新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえたポイントは(2)と(5)にある。まず(2)では「倒れている人の顔と助ける人の顔があまり近づきすぎないようにすること」が重要だ。(5)では、エアロゾル(ウイルスなどを含む微粒子が浮遊した空気)の発生を防ぐ目的で、胸骨圧迫を行う前にハンカチやタオルなどを傷病者の鼻と口にかぶせる。マスクや衣服でも代用可能だ。
人工呼吸は、倒れている相手が成人か小児かで判断を分ける必要がある。成人なら人工呼吸を行わず胸骨圧迫だけを続ければよいが、小児の心停止は呼吸障害を原因とすることが多く、成人に比べて人工呼吸の必要性が高い。講習を受けて人工呼吸の技術を身につけており、人工呼吸を行う意思がある場合は胸骨圧迫に人工呼吸を組み合わせる。血などの汚染があり、人工呼吸にためらいがある場合は胸骨圧迫だけを続けるのがよいという。
胸骨圧迫を継続的に実施する方が重要
動画を公開した神戸市消防局兵庫消防署の消防防災課救急係係長消防司令・川村翔太さんに取材すると、成人に心肺蘇生法を施す場合、「もし人工呼吸ができるなら行う方が望ましい。ただ、それよりも胸骨圧迫を継続的に実施する方が重要で、復帰率も高まる」と説明した。やり方がわからない、新型コロナウイルス感染リスクがあるため口と口を接することに抵抗がある、と人工呼吸をためらっている間にも、胸骨圧迫を優先して行う方がよいようだ。
なお、同消防署が公表した動画は、日本救急医療財団心肺蘇生法委員会が5月22日に公表した「新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえた市民による救急蘇生法について(指針)」に基づいている。