肉屋のコロッケ 東海林さだおさんは漫画と文章の二刀流を楽しんで

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絵のような文章

   東海林さんは82歳。毎日新聞朝刊の「アサッテ君」は1974年から40年間(13749回)も続き、全国紙の連載漫画として最長記録を打ち立てた。連載中の作品では週刊文春の「タンマ君」が1968年から、週刊現代の「サラリーマン専科」は1969年から。エッセイでは週刊朝日の「あれも食いたい これも食いたい」が1987年から続く。

   衰えを知らない体力気力には驚嘆するほかないが、絵と文の折り合いをどうつけているのかは同業者も気になろう。漫画が主で文章は副、という告白である。

   漫画はプロットさえ固まれば「あとは作業」...これに対し、文章はどう転がっていくか分からないから楽しいと。どうやら東海林さんの理想は、リズムよく展開していく「絵のような文章」らしい。書き仕事に、そんな感覚で向き合えるのはうらやましい。しかも、どちらが本業かわからないほどの仕上がりだ。

   当方の場合、文章のほうが「肉」なので、軽いノリで楽しんでばかりもいられない。なにしろコロッケやハムカツといった余技もなく、肉ひとすじなのだ。これから揚げ方を勉強しても売り物にはならないだろう。

   改めて思う。二刀流で半世紀...仰ぎ見るほかない巨峰である。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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