「負けなかった大英帝国」のアイコン
米国では「スピットファイア」、日本でも「迎撃戦闘機スピットファイア」とタイトルが翻訳されているこの映画は、バトル・オブ・ブリテンの主役、スーパーマリン・スピットファイア戦闘機の開発物語を主任技師レジナルド・ミッチェルと友人のテストパイロットの交流を通して描く、という内容です。ウォルトンは、その映画に、英国を鼓舞するエルガーの「威風堂々」風の前奏曲と、クライマックスのスピットファイア戦闘機が工場で続々と量産されていくシーンに、「フーガ」をつけました。音楽は大評判となり、サウンドトラックから抜粋して、ウォルトンは純粋な管弦楽曲として、同年末には「スピットファイア前奏曲とフーガ」を完成させます。
実際のバトル・オブ・ブリテンの主役の機体はどちらかというと、ライバル機であるホーカー・ハリケーンでしたが、設計の新しいスピットファイアは、第二次大戦の期間中、常にエンジンや翼や機体のアップデートをして第一線機として戦い続け、英国空軍R.A.F.の象徴となります。
「負けなかった大英帝国」のアイコンとなったスピットファイアと、ウォルトンの音楽は、今でも英国人の誇りとともに、全世界の人々に愛されています。スピットファイアの機体は今でも稼働機が保存され、シルバーに塗装された1機が、つい先日も世界ツアーの途中日本を訪れたりもしています。同様に、「ジョンブル魂」が感じられ、勇気がもりもり湧いてくるウォルトン「スピットファイア前奏曲とフーガ」は、なにかと「第二次大戦以来の危機」と形容されることの多い今年こそ、しみじみ聴きたい1曲なのかもしれません。
本田聖嗣