あるべき中小企業政策の議論自体をタブー視していないか
要は、1960年代の中小企業政策が企業の成長のインセンティブを阻害し、人口減少局面において生産性低迷の要因になっているとする。すなわち、国全体の生産性は企業の規模=規模の経済で決まり、日本を含め各国で大企業の生産性は高い中、日本は手厚い中小企業優遇策の結果、中小企業以下の比率を高く維持し、全体の生産性を引き下げている。加えて、低すぎる最低賃金が中小企業の支援策となっており、人口減少下において人手不足や格差の問題も生んでいるとする。従って、手厚い中小企業優遇策を規模拡大のインセンティブに切り替えるとともに、最低賃金の引上げを提言している。この手の議論になると、大量倒産・大量失業が出るという批判が出るが、"monopsony"(市場における買い手独占)の理論や海外の事例を用いて反論している。
これらの分析を多くのデータと理論分析に基づいて非常に丁寧に解説している。こうした分析と政策提言が霞が関から出なかったのが寂しいと思ってしまう。本書でも指摘されているが、「下町ロケット」に代表されるキラリと光る中小企業を過度に美化し中小企業全般に一般化する、エピソード・ベースの議論が、日本では横行していないか。また、農業政策よりマシといった比較論がモラルを低下させていないか。更には、あるべき中小企業政策を論じること自体がタブー視されてなかったか。いろいろ考えさせられる。
コロナ禍でも、資金繰り支援に持続化給付金や家賃支援給付金など、中小企業というカテゴリーで手厚い支援が実施されている。災害はやむを得ない面もある。本書の指摘にもいくつも反論はあるだろう。そうした議論も正面から行い、afterコロナの成長戦略の中で望ましい企業政策を再構築すべきではないだろうか?
経済官庁 吉右衛門