「第2の祖国」米国に愛着感じる
その中に、ジョージ・ガーシュウィンのオペラ、「ポーギーとベス」を題材とした作品があります。長いオペラからハイフェッツが選曲し、5曲ほどにまとめた作品で、ヴァイオリンとピアノのデュオで演奏されます。
1曲目は、もっとも有名なアリアと行ってもよい「サマータイム」から始まり「女は気まぐれ」という曲まで中断せずに続きます。原曲のメロディーの良さはそのままに、よりジャズの方向と言っても良いようなピアノの大胆な伴奏がつけられ、同時にヴァイオリンの超絶技巧テクニックも堪能することができるモダンな曲となっています。伴奏のピアニストには指使いや弾き方のアドバイスまでしていたというハイフェッツでしたから、ピアノにも造詣が深く、ピアノ部分も、難技巧が要求されます。程よいクラシック的バランスと、ジャズ的雰囲気に満ちた、「新しいポーギーとベス」となっています。
東欧の出身であったハイフェッツですが、ニューヨークデビュー以来、第2の祖国となった米国にも愛着を感じていて、第二次世界大戦中は、積極的に兵士の慰問に訪れ、激戦地だった北アフリカやイタリアも訪問しています。おそらく、米兵に聴かせるためにはメイド・イン・アメリカの曲を、という配慮もあったのでしょうか、幅広いハイフェッツの編曲作品の中には、黒人霊歌であったり、米国最初の作曲家とされるフォスターの作品であったり、クラシックとジャズの融合を果たしたガーシュウィン、といった米国の作品も多く見られます。
日本の夏は、原爆忌や終戦記念日などがあり、先の戦争を思い出す人々の祈りの季節ですが、戦場の米国の兵士たちの中には、オリジナルをアレンジした「サマータイム」を奏でるハイフェッツの姿があったのです。おそらく兵士たちも感動したであろうハイフェッツの作品は、21世紀の今でも、輝きを失わず、魅力的なヴァイオリンレパートリーとなっています。
本田聖嗣