社会、正義、倫理をおろそかにするブランドは信頼されない

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■『D2C―世界観とテクノロジーで勝つブランド戦略』(著・佐々木康裕 News Picks Publishing)

   この本に出会ったのは知人の一言だった。「米国で小売業界が激変しているのを知っていますか?技術と小売りサービスを見直すことで消費者向けのブランドの秩序が激変しているのです。顧客とブランドの関係性に不可逆の変化が起きているのです」と。

   Amazonがショッピングモール、街の零細小売店を問わず、伝統的小売業を淘汰しているのは周知だが、PRADAやApple Storeといった大都市の高級ブティック街には創業数年のD2C店舗が立ち並ぶ。

   日本ではわずか2年前にD2Cが話題になった。オーダースーツを展開するファブリックTOKYOが10億円規模の資金を調達したことが業界の話題になったのだ。米国では、すでに時価10億ドルを超える未上場企業である「ユニコーン」のD2Cが7社誕生している。AI(人工知能)やデータ分析技術とSNSマーケティングを組み合わせて、化粧品、眼鏡、スーツケースなど製品自体は既存の技術を用いる商材のブランドに激変が生じている。製品の見た目や発想の斬新さ、顧客ごとに異なる体験を提供するきめ細かな対応、デジタル技術で生産販売体制を効率化する。それがD2Cだ。

   著者の佐々木氏は、これから数年のうちに、新興企業は参入できないとされてきた自動車や不動産開発にも、B2B業界にも、D2Cの波が押し寄せると予想する。

SNSを利用したライフスタイル創造と「部活」

   D2Cと既存企業の違いはいろいろあるが、第一の特長は徹底したデータ・マーケティングだ。SNSで集めた顧客データの分析に基づいてマーケティングや出店計画を立てる戦略で、2014年に刊行されたコトラーのマーケティング4.0と軌を一にする。残念ながら日本でもアパレル大手の倒産が起きたが、伝統的なアパレルブランドにはデータサイエンティストがいない企業もあるらしい。また、D2Cは顧客データを重視するため、デパートや大手量販店のような間接販売を忌避する。

   第二は、ライフスタイルを創造して提供しようとする経営姿勢だ。40年前の日本では、規格化された大量生産の住宅と家電製品によってライフスタイルを画一的に宣伝広告して大成功を遂げた。これに対してD2Cブランドは、顧客の感情を満たすサービスを提供しようとする。しかもひとりひとり別々に。ベッドを売る米国のD2Cは、ヨガ、睡眠、健康をテーマに雑誌を編集・発行し、自社製品を売り込まないで売り上げを急増させている。

   その背景には1980年代以降に生まれたミレニアル世代の消費性向がある。長期間就業に苦しんだこの世代は倹約志向かつSNS志向で、見ず知らずの人と話すこと、ネットで買い物することに躊躇がない。社会問題や環境問題を重視する傾向も団塊の世代やバブル世代とは大きく異なる。

   大手企業とは違い、D2Cは顧客を仲間として先々まで寄り添おうとする。先のベッド企業は顧客1万5000人の睡眠データを常時モニターしており、健康睡眠サークルの活動(部活)とも言える場になっている。日本でも、モンベルや好日山荘のように登山や自然を愛する部活のような企業行動が誕生している。

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