林部智史「II」 泣き歌...笑ってほしいから歌う

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コンサートらしいコンサート

   林部智史は88年5月、山形県新庄市の生れ。高校卒業後に看護師を目指して入った看護学校を中退。住み込みで働いていた北海道礼文島の民宿で出会った音楽好きな同僚の「その声で歌手にならないのはおかしい」という勧めで上京。新聞配達のバイトをしながら音楽学校に通った。オーディションで落ち続けたものの、カラオケ番組で優勝してデビューを決めた。歌手になることを勧めたギタリストの同僚とは、アマチュア時代の最後のステージを共にした。

   アルバム「Ⅱ」の中の核となっている「夢」は、そういう経験があってこその彼自身の詞だ。

「人は夢破れ 新たな夢を見る
 つまずき倒れても それでも歩いてく」
「全てを捨て去って 孤独も捨て去って
 生きてみたい」

   林部智史のコンサートは幅広い女性客で占められている。「歌を聴く」という意味ではまさしくコンサートらしいコンサートだろう。アルバム「Ⅱ」の初回盤には去年、サントリーホールで行われた「林部智史3rd Anniversary Concert」が完全収録されている。60名を超えるオーケストラを従えた歌声のコンサートは改めて「泣き歌の深み」を感じさせるだろう。

   「お客様の中には僕よりもちょっと年上の方も多いですけど、そういう方が泣いてくださるのは、同じ年くらいの方が泣いてくださるよりは完全に嬉しいですね。でも、狙いに行くと泣いて頂けない。『泣き歌』を歌おう、泣いて貰おうと思って歌いにゆくと違ってしまいますね。声が思うように出づらい日もあるとつい『泣きボイス』を作ってしまうんです。そういう時は自分が嫌になります」

   自分の歌をどんな人に届けたいか。アルバム最後の曲「僕はここにいるⅡ」は、前作のアルバム「Ⅰ」の中の「僕はここにいる」の続編になる。「その時その時の自分が歌っている理由を届けたい。同じタイトルにすることで、自分の成長と変化が記録されると思う」、という曲。作詞も作曲も彼だ。

「生きていく為に 一人じゃ何も出来ないけど
 時に一人で泣いてきたから 僕はそばにいれる」

   悲しいことを悲しく歌うことが「泣ける」だけでもない。「泣いたこと」のある人だから気づけることや感じてしまうこと。失ったこと、傷ついたこと、取り残され立ち尽くしたことのある人だから求める幸せ。自分がつまずいたことがあるから見える他人のつまずき。アルバム最後の「あなたへ」も彼の詞曲だ。

「あなたが人知れず涙した夜も
 誰よりそばにいたいから
 どうか笑って」

   泣いてほしいから歌うのではなく、笑ってほしいから歌う。だから泣ける。それが彼の「泣き歌」なのだと思う。

(タケ)

タケ×モリ プロフィール
タケは田家秀樹(たけ・ひでき)。音楽評論家、ノンフィクション作家。「ステージを観てないアーティストの評論はしない」を原則とし、40年以上、J-POPシーンを取材し続けている。69年、タウン誌のはしり「新宿プレイマップ」(新都心新宿PR委員会)創刊に参画。「セイ!ヤング」(文化放送)などの音楽番組、若者番組の放送作家、若者雑誌編集長を経て現職。著書に「読むJ-POP・1945~2004」(朝日文庫)などアーティスト関連、音楽史など多数。「FM NACK5」「FM COCOLO」「TOKYO FM」などで音楽番組パーソナリテイ。放送作家としては「イムジン河2001」(NACK5)で民間放送連盟賞最優秀賞受賞、受賞作多数。ホームページは、http://takehideki.jimdo.com
モリは友人で同じくJ-POPに詳しい。

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