失くし物は何ですか 五木寛之さんは愛用のサングラスを気長に待つ

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急に惜しくなって

   五木エッセイを引用させていただくのは早くも4回目。うち3回はこの「生き抜くヒント!」である。老境とでも言おうか、どこか浮世離れしながら、現実ともそこそこ切り結ぶ。その枯れ具合がほどよい。奇をてらわない端正な筆致も読みやすい。

   80年以上生きていれば、失くした物も多いだろう。個人的には、半世紀以上も五木さんの「そばにいてくれる物」のほうに興味が向く。物たちも幸運である。

   大作家と競うつもりはないが、私もこの2カ月ほどで同じ生活用品を続けて二つ失くした。スーパーなどで使う携帯用のエコバッグである。

   フランスの大手小売チェーン「モノプリ」の品で、値段は1ユーロ(約120円)だったか。5年前、東京帰任時にまとめ買いしたやつを、レジ袋の有料化を前に使い始めたのだ。

   丈夫で軽い、たぶんポリエステル製で「MONOPRIX」のロゴが入り、畳むとスマホ大になる。ひとつ目は空色、次が赤。どちらも気がついたらウエストポーチから消えていた。

   エコ生活が嫌いなわけではないから、向うから離れていったとは思いたくない。ネット通販で調べてみたら、あのモノプリに「パリジェンヌ御用達のお洒落スーパー」と説明がつき、ひとつ1000円以上する。にわかに惜しくなった。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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