「デジタル外交」...新しい日韓交流の可能性を探る

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欧米に比べて少ない東アジアの研究

   こうした日韓両国の<デジタル外交>の詳細を知るために、公益財団法人韓昌祐・哲文化財団の助成金は、韓国外交部の担当者や専門家、両国大使館への直接的な調査や海外での学会参加旅費として計上。またSNSコンテンツ分析と最新機器への対応状況を明らかにするため、モバイルデバイスや、スマートウォッチ、スマートスピーカーなどを設備購入費に充てた。

   2020年1月下旬、米国ハワイ州で開かれた学会「太平洋電気通信協議会(Pacific Telecommunication Council: PTC)」に出席、『Digital Diplomacy between Korea and Japan』のタイトルで研究成果を発表した。

   この発表に対し、「北米、ヨーロッパ、オセアニアでは多様な関連研究が行なわれているが、東アジアの分析は少なく、日韓貿易紛争がグローバル問題として注目される中でタイムリーな研究である」と高く評価された。

   現在、日本語と韓国語の論文を作成中で、2020年中に両国の国際政治学会等の学会誌に投稿する予定だ。また、作成中の論文の一部は、ワーキングペーパーとして、ウェブサイトで公開している。

   そもそも李苑暻さんが、<デジタル外交>を研究するようになったのは国家の役割について関心を持ったことが出発点だった。韓国の高麗(コリョ)大学校で英語英文学と政治学を専攻し、卒業後に世界最大級の電子製品メーカー三星(サムスン)電子に就職。働いているうちに本来国家が果たすべき役割を民間企業が担(にな)っていることに気づかされたからだ。

   その一例が、電子製品に使われる金属が環境に負荷をかけるという問題だった。製造や使用の禁止など、他国間との交渉が必要になったが、国に専門家がほとんどいなかったため、会社が中心になって対応することになった。

   そうした経験から、どのような時に国家が役割を果たせるのか、民間企業に勤めたことで、外交の重要性を考え直すきっかけになった。

   その後、ソウル大学大学院外交学科の修士課程に進み、韓国科学技術政策研究院の研究員、駐日大韓民国大使館政務課の研究員、早稲田大学大学院国際情報通信研究科の博士課程を修了し、上智大学グローバル教育センター特別研究員をへて現職に至っている。

   日韓関係がこじれ、ネット上ではヘイト的な右翼的言説(げんせつ)が溢(あふ)れる時代になった。外交的な対立を<デジタル外交>によって相対化し、健全なものへと変えることもできる。しかし、感情的な言葉に外交が影響を受けることもある、と李さんは将来的な<デジタル外交>の課題を感じ取っている。

   「最近の若い人たちは特に、自(みずか)ら調べることをしなくなっています。サイバー空間からもたらされた情報を受け取るだけでは、偏(かたよ)った考えに影響されます。ますます情報リテラシー教育が必要な時代になると思います」

   日韓両国の相互理解と平和共存のために、専門家として李さんは今後の課題を提示する。      (敬称略)

(ノンフィクションライター 高瀬毅/写真 渡辺誠)

公益財団法人韓昌祐・哲文化財団のプロフィール
1990年、日本と韓国の将来を見据え、日韓の友好関係を促進する目的で(株)マルハン代表取締役会長の韓昌祐(ハンチャンウ)氏が前身の(財)韓国文化研究振興財団を設立、理事長に就任した。その後、助成対象分野を広げるために2005年に(財)韓哲(ハンテツ)文化財団に名称を変更。2012年、内閣府から公益財団法人の認定をうけ、公益財団法人韓昌祐・哲(ハンチャンウ・テツ)文化財団に移行した。

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