松山容子パッケージの初代「ボンカレー」今も販売
沖縄の真の課題を全国に知ってもらうにも、今回、手に取りやすい新書で本書が世に沖縄の貧困問題を問うた意義は大きいと思う。本書の「はじめに 沖縄は、見かけとはまったく違う社会である」で、冒頭の「貧困率『断トツ全国1位』の謎」というパラグラフでは、統計データを参照しつつ、「沖縄は日本でも突出した貧困社会である」とし、「・・なぜ、『好景気』の中で貧困が生じ、『優しさ』の中で人が苦しむのだろう?本書は、この問いに、正面から向き合うものだ」と宣言する。
第1章の「『オリオン買収』は何を意味するのか」、第2章「人間関係の経済」での、沖縄社会の特色の鮮やかな言語化にはうならされる。せっかくの日本政府の様々な手厚い支援措置が本当に必要としている層に十分届いていない現状を冷静に分析するとともに、沖縄では、違和感のある人に対抗する典型的な手段の1つが「行動を止めること」(サポタージュ)だとするのも印象深い。また、松山容子パッケージの初代「ボンカレー」がいまだに販売されている消費の保守性なども目を引く指摘だ。
第4章「自分を愛せないウチナーンチュ」で、沖縄の長男問題としてふれられている「門中(むんちゅう)制度」(先祖を共通にする父方の血縁をたどって結合している親族集団)や、20世紀初めまで県民のほとんどは移動の自由がなく強固な地縁関係が形成されてきたという沖縄の社会構造(ユイマールといわれる)が、都市化や核家族化の進行で顕著かつ急速に希薄化しつつある、という点が重要だと評者は思う。いままでもあったはずの「子どもの貧困」がここにきて世の中で広く問題視されるようになったのはこのためだろう。
日本政府や沖縄県が、この沖縄社会の変化に応じて、それぞれの政策課題に具体的な目標を設定し、地道にその解決を図っていければ、社会の変化を許容するかの是非は問われるものの、今の貧困の悲惨な状況は改善されうると思われる。沖縄でも、社会の変化が否応なく進んで、市場(マーケット)がもっと機能し、競争が生まれ、今後は、資源が最も生産的な用途により円滑に供給される事態が出現しつつある。
第5章「キャンドルサービス」では、経営難のホテルを立て直した著者の独自の「愛ある経営」に関わる信念が開陳される。この中で、「社会を変える『ひとりの力』」に可能性を見いだす。
沖縄社会の変化は、本書の「おわりに」の「これからの沖縄の生きる道」で明確に見通される。著者は、沖縄でも、人口動態と労働力不足、情報の流れの自由化、沖縄への本土経営者の参入、の3つの波が押し寄せ、変化は避けられないと喝破する。そして、「本土化」とは違う「第三のデザイン」はないのかと自問自答し、今後の著者の課題とするのだ。