カレーの誘惑 植野広生さんは「ライス半分にするから」と食欲に従う

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シンプルほど難しい

   同誌の特集によると、スパイスカレー作りの基本手順は次の通り。

(1)油にスパイス(ホール)の香りを移す
(2)その油でタマネギを炒める
(3)パウダースパイスを加える
(4)具材と水分を入れて煮る
(5)仕上げの香りをつける

   つまりはスパイスのオンパレード。それぞれの香りが混然一体となり、食欲を刺激する結果、出来あがる頃には飢餓感が極限まで高まっている、という寸法だ。

   植野さんは他メディアへの登場も多く、7月からはTOKYO FMで、言葉だけで食欲を刺激する番組「食べるラジオ」(土曜夜7時)が始まった。Dancyuの写真や文章が読者の食欲を刺激するように、「リスナーのおなかを鳴らしたい」と語る。「ラジオは音声だけ。素ラーメンのように、(料理と同様)シンプルになるほど難しいし、おもしろいんですよ」と、朝日新聞の取材に答えている。

   「シンプルになるほど難しい」...肩書だけでなく、食べ手としても百戦錬磨の植野さんだからこそ説得力を持つ「断定」だ。味覚はもちろん、嗅覚も視覚もなし。言葉や音声だけで食べたくさせる表現力は一朝一夕では身につくまい。

   カレーも、限られたスパイスだけで勝負するほど難しいに違いない。とはいえ、これからの季節、カレーが一段と美味くなる。暑さや、冷水までもが引き立て役になるからだ。

〈夏とライスカレーは、まさしく若者のためにある〉

   天声人語でそう言い切ったのは深代惇郎(1929-1975)である。深代クラスになると、根拠の薄い断定にも「なんでやねん」と突っ込む者はいなかったはずだ。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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