不安について 土屋賢二さんの妻は「あなたがいると安心できない」

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ナンセンスに身を任せ

   初めて土屋さんのコラムを読む人は、どこまで本気なのだろうと戸惑う。そのうち、冗談の中に幾ばくかの真理が潜むのではないかと探すようになり、やがてすべてが冗談だという不都合な真実に気づく。そこから本気で楽しめる人だけがファンになる。

   今作でも「生き延びるためには不安が必要だ」から、「人間は不安を感じないようにできている」に至るロジックの倒錯が気になるうちは、まだまだ。文章自体の面白さ、ちりばめられた屁理屈やナンセンスに身を任せるべきなのだろう。

   私も、執筆や講演の前には人並みに緊張し、不安を抱く。不安や緊張の大きさを概念的に表せば、分子が「周囲の期待」、分母は「自分の実力」ということになろうか。

   もともと期待や要求のレベルが低いか、やすやすとこなせる自信があれば、不安も緊張も小さく、無視できるほどになる。逆も真なりで、己の実力が要求水準に追いつかないと思えば自ずとドキドキする。私の場合、分子も分母も等しく小さいので、どう転んでも大したことにはならない。これに対して、分子も分母も大きい、例えば一流アスリートの五輪決勝におけるパフォーマンスなどは、観ている側まで鼓動が高鳴るものだ。

   思うに、土屋コラムに「人生の教訓」のようなものを期待する読者は少ないだろうから、先生、毎回リラックスして執筆されているはずだ。それが軽快な筆致に表れている。

   その境地に早く到達したいものである。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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