外交官としての歴史観や戦略感、そして次世代への思い

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■『歴史の教訓-「失敗の本質」と国家戦略』(著・兼原信克、新潮新書)

   本書は、7年間、官邸で外政担当の内閣官房副長官補を務め、その間、外交防衛戦略の司令塔として国家安全保障会議及び国家安全保障局を立ち上げ、誰もが認める正真正銘の官邸機能を発揮するなど、多くの功績を残された外交官の退官後の作品である。外交官生活を回想するものではなく、根底にある歴史観や戦略感、そして次の世代の外交官への思いをまとめられたもののように思う。

明確に外交官としての視点に立った歴史分析

   本書を通じて感じられるのは、圧倒的な知識量と熱い情熱である。本書のターゲットは、近代日本の外交史である。この期間の激動の歴史の展開を概観する中で、対華21カ条要求、日英同盟の消滅、満州事変、北部仏印進駐から三国同盟と次々と愚策を展開していく様を痛烈に批判し、失敗の根幹に統帥権の独立があり、国家戦略の欠如に要因を見いだしていく。教科書的な概観ではなく、明確に外交官としての視点に立った歴史分析が興味深い。

   この間も国際情勢を冷静に分析する外交官も存在してきたが、これらが打ち消され、選択肢を失っていく展開が表される。その分析の端々に外交官としての憤慨もまた見て取れる。すなわち、的確な国家戦略をもって臨めば、欧州の第二次世界大戦に中立の可能性も模索できたこと、誤った選択により大きな犠牲を生んだことへの指摘に説得力がある。 もちろん事後的な分析であることを前提に、20世紀の同時代では見えない歴史の流れを21世紀の現在、歴史として俯瞰し、後世の者の責任として、その誤った根本原因を見いだし、現在の外交戦略を描いている。

日本の外交戦略へのメッセージ

   また、こうした分析を展開する上で、歴史を見る視座を与えてくれている。冒頭、「歴史は、遺跡から出る陶器の破片や古文書を収集するだけでは成立しない。今を生きる私たちが、そこから何を読み取るのかという視座を離れては成立し得ない」とする。正に、この視座に立った分析が本書を貫いている。現在の、そしてこれからの外交を考えていく上での歴史的教訓を提供してくれている。これは、現在の政府の外交方針にも見られる「普遍的価値観」の構築につながる。

   最後に、本書は、日本の外交戦略へのメッセージが記されている。それは、20世紀の歴史から導き出される普遍的価値観と自由主義的国際秩序への思いである。そして、この普遍的価値観は様々なことばであらわされてきているが、日本の価値観の普遍性として「優しさ」と「温かな心」を挙げている。このシンプルな総括に真の普遍性と理念の深さを感じる。

   公務員として、こうした歴史観と使命感をもって公務たる外交にあたることができた役人人生をうらやましく思う。自分自身は外交を専門分野としないが、それぞれの分野で、バックボーンとなる理念をもって公務にあたることの意義を教えられる。自分にとっては何か、改めて考える契機としたい。

経済官庁 吉右衛門

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