「ビーチエリート」でないからこそ
TUBEは、神奈川県厚木市出身の前田亘輝(V)、東京都町田市出身の春畑道哉(G)、神奈川県座間市出身の角野秀行(B)、松本玲二(D)という4人組、同じコンテストに別々のバンドで出場、ベストヴォーカル賞を受賞した前田亘輝とベストギタリスト賞を受賞した春畑道哉を中心に結成された。当時やっていた音楽はブルースにヘビメタとそれぞれに違っていた。当時から夏のバンドだったわけではない。デビュー曲の「ベストセラー・サマー」は作詞・三浦徳子、作曲・スズキキサブロー。前田亘輝は、「たまたまあった曲で、TUBEのために作ったわけじゃないと思う」と言った。
自分たちの曲がシングルになるのは89年の9枚目「SUMMER CITY」からだ。以来、作詞・前田亘輝、作曲・春畑道哉というコンビは不動のものになった。
その中で「日本の夏」という路線が定着したのは、90年に出た11枚目「あー夏休み」からだろう。ラテン調の曲に「浴衣に花火」「蚊帳の鈴虫」という歌詞はJ-POPそのものだった。新作アルバム「日本の夏からこんにちは」は、7作目の日本語タイトルのアルバム。そのうち5枚は「あー夏休み」の翌年、91年の「湘南」から連続している。「夏だ、TUBEだ」というイメージが決定づけられたのがその時期だった。
「でも、ベスト・ヒットUSAで育った世代ですからね。ベースの角野はフュージョンをやってましたし、すごく嫌がってた。もし、これでダメだったら辞める、と言ってましたからね。まわりは「夏だ、すいかにTUBEだよね」って言ってくれるけど、自分たちでは「違うんだよな」って勝手に傷ついてました。そういうイメージから離脱したい。それが10年くらいは続いてましたね。今はライフワークという気がしてますけど」
TUBEがなぜこれだけ長い間「夏」を歌って来れているのか。そして、支持されているのか。その答えの一つに、彼らが「ビーチエリート」ではないことがあるのだと思う。
生まれた時から海辺で暮らしている、海とともに暮らしているという環境ではなかった。だからこそ感じる渇望感や期待感。海沿いで暮らす人たちにとっては、時には「招かれざる若者達」だからこその季節感である。
「確かに、ちゃんと調べたわけじゃないんですけど、海のない地域にコアファンが多いんです。本人は忘れてるでしょうが、加山さんに「お前らは夏に出てくる蚊だ」って言われましたことがありますから(笑)。もちろん誉め言葉なんですけど」