オリエント史から見えた政教分離や信教の自由の意義

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■『古代オリエントの宗教』(著・青木健 講談社現代新書)

   旧約聖書と新約聖書、二つの聖書が、4世紀以降、周辺国・地域の統治に与えた影響は大きい。イスラム教が、邪教との扱いを受けないよう、二つの聖書を前提に、最後の預言者としてムハンマドを位置づけていることはその一例だ。というのも、オリエント地域には、マニ教やミトラ教という苦い先例がある。

   キリスト教は、西ヨーロッパでは順調に浸透した。ローマ帝国がキリスト教を国教として採択した西暦380年以降、ローマ教皇と領主がカソリックで結ばれる体制が各地域で確立していく。キリスト教の影響は、今のトルコ周辺にあたるビザンチン帝国の版図にも及んだ。

   本書の舞台は、これらの地域の東、オリエント地域だ。著者は、二つの聖書が国・地域の統治に与える影響力を「聖書ストーリー」と定義し、土着の神話や宗教が、キリスト教の影響を受けてどう変化したかを解説してくれる。聖書とは別の物語を維持できれば「アナザーストーリー」となるが、それは簡単ではない。多くの神話と宗教が、聖書ストーリーに組み入れられ「サブストーリー」化した。

二つの聖書よりも古いゾロアスター教

   二つの聖書が誕生する前、ペルシャ帝国ではゾロアスター教が広範に信仰されていた。帝国のキュロス2世は、ユダヤ人の信仰の自由を認め、その寛大さとペルシャ帝国とユダヤ教のかかわりは旧約聖書に百か所以上にわたり記されている。高校の教科書でいえばバビロンの捕囚だ。

   ペルシャ帝国は、ゾロアスター教を国教としていたが、イスラム教が誕生し、アラブのイスラム教徒の軍事力が強くなり、キリスト教とイスラム教の双方と共存する道を探ることになる。ゾロアスター教は、13世紀には、キリスト教およびイスラム教の中にサブストーリーとして位置づけられてしまう。

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