「必要条件」が揃って楽譜が生まれる土壌が整った
整理していくと、
1. 録音機が発明される前であること・・・音楽そのものを記録できる現代がいち早くやってきていたら、おそらく今のような形の楽譜は出現しなかったと思われます。
2.録音できないが、たくさんの、長い音楽を誰かに伝える必要があること・・・現代のカラオケのレパートリーぐらいならば、みんな楽譜なしに覚えられます。それを遥かに超える「長さ」と「量」の音楽を一人が覚えなければならない、という状況があれば、音楽を紙に記録する必要性が出てきます。
3.即興性や、個人による音楽の改変が許されない状況であること・・・音楽は多くの場合「楽しむ」ものであるため、自由な改変は当たり前でした。他人の作った音楽を1音たりとも変えずに再現して演奏する・・などというのはかなり特殊な場合だったのです。
4.たくさんの人が、同時に音を出す音楽が必要になること・・・団体行動でもそうですが、個人行動の自由を認めていては、なかなか揃わないものです。集団での音楽、つまり声の音楽における「合唱」が必要になってくると、楽譜のようなものがないとかなり不便ということになるわけです。自然に発生した世界の様々な文明の音楽・・・日本も含めて・・・はほとんど「単旋律」、つまりメロディーだけでできていました。違う音を重ねた音楽を日常的に楽しんでいたのは、ごく限られた文明だったのです。
まだまだ必要条件は考えられるのですが、大まかには、これらの状況が揃って、楽譜が生み出される土壌が整った、と言えます。厳しいキリスト教会が支配する中世の欧州でこれらの条件が揃ってくるのですが、その欧州でさえ、現代につながる楽譜を生み出すには、何百年という長い時間がかかったのです。
本田聖嗣