いつもと違う初夏 八木健介さんはコロナに待たされたアユ解禁に想う

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失くして知る価値

「豊かな老後のために、室内と屋外に最低ひとつずつ、一生ものの趣味を持とう」

   そう語ったのは多趣味で知られた大橋巨泉(1934-2016)だ。彼も嗜んだ釣りは自然を相手にするレジャーの代表格で、テニスや野球のように屋内に置き換えることはできない。外出自粛に従った釣り人たちは、2カ月近くを無駄にしたことになる。

   釣り場は、筆者が言うように魚を獲るだけの空間ではない。川も海も湖も、そこに立つことで「心身の健康」を得る場所なのだ。コラム前半にある「学校という場所は勉強するためだけの空間ではない」という気づきが、伏線になっているのかもしれない。なるほど、学校も釣り場も、それを失って初めて知る価値があろうというもの。

   八木さんは版元の自己紹介欄で、いちばん幸せなのは「工夫や粘りや上達が形となって釣れた時。最近は釣った魚をさばき、食べた子どもたちが喜ぶ姿」としている。

   学校と釣り場。八木さん親子はそれぞれ、居るべき場所に戻っているだろうか。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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