大瀧詠一に対する敬愛の念
シャネルズのデビューから40周年。リーダーだった鈴木雅之の40周年記念盤が4月に出た「ALL TIME ROCK'N' ROLL」だ。通常盤は3枚組。それぞれに40年のストーリーが織り込まれている。
例えば、DISC1はシャネルズの代表曲とデビュー前に得意としていたドウワップやロックンロールのカバーをゆかりの人たちと歌いなおしている。アマチュア時代のコンテストの十八番でありながらCDにはしたことがないという「Good Times,Rock and Roll」や「Tears On My Pillow」、「ウイスキー・ア・ゴー・ゴー」でも歌っていた「Daddy's Home」。オリジナルメンバーの佐藤善雄とともに水を得た魚のようだ。
ほぼ同時期を歩いてきたスターダストビューと歌った「ランナウェイ」、89年生れの打ち込み系シンガーソングライター、岡崎体育と一緒の「街角トワイライト」、クイーンの「Crazy Little Thing Called Love」には、香港のロックンロールバンド、少林兄弟も加わっている。どうすればありがちな懐古趣味に陥らないか。人選と選曲、アレンジの遊び心。7月にはアナログ盤が出る、ピチカート・ファイブの小西康陽がクラブのDJをしていて受けた曲をつないだ一曲目の「Ultra Chu Chu Medley」が全てを物語っている。
今回、改めて思わされたのが、鈴木雅之が大瀧詠一に対して抱いている敬愛の念だった。DISC1の9曲目がラッツ&スター活動再開の時に発売したシングル、大瀧詠一の「夢で逢えたら」、最後の曲がゴスペラーズの黒沢薫とケミストリーの川畑要と歌ったシャネルズ時代の「魂のブラザー」だ。「魂」という言葉に意味を持たせているのは間違いない。
DISC2は、DISC1で歌いなおした曲も交えた代表曲のリマスタリングベスト。その中には大瀧詠一作曲・松本隆作詞の名曲、83年のシングル「Tシャツに口紅」がある。そして、シングルは片面しか書かないと言われていた大瀧がカップリングに書いた「星空のサーカス」が、アルバムバージョンで収められている。極めつけは。シングルを集めたという選曲では異例の19曲目「熱帯夜/真夏のエクスタシー」だ。ラッツ&スター最後のアルバム「SING!SING!SING!」の中の曲だ。鈴木雅之は、筆者が担当しているFM NACK5「J-POP TALKIN'」のインタビューで、「大瀧さんの『さらばシベリア鉄道』の俺たち流の解釈。もし、その前に出した2枚のシングルが売れたら三部作で出すつもりだったけど、売れなくてシングルに出来なかった」と言った。「幻の三部作」の三曲が並んでいる。イントロを聞いて「さらばシベリア鉄道」を思い出す人は多いはずだ。
そんなベスト盤選曲の最後が、ゴスペラーズとラッツ&スターの合体ユニット、ゴスペラッツの「Pap-Pi-Doo-Bi-Doo-Ba物語」である。大瀧詠一が作詞家・松本隆と組んだ81年の名盤「A LONG VACATION」の中で唯一の自作詞曲。元々、ボツになったCMソングで、その時にコーラスで参加していたのがデビュー前、アマチュア時代のシャネルズだったことをこのアルバムで初めて知った。ラッツ&スターの83年のファーストアルバム「ソウルバケーション」のプロデユーサーが大瀧詠一だったことを忘れてはいけない。つけくわえればアルバムのデザインをしたアンディ・ウォーホルは、81年のウイスキー・ア・ゴーゴーに遊びに来ていたという偶然のめぐりあわせもある。
そして、DISC3には、氣志團の綾小路翔、いきものがかりの水野良樹、アンジェラ・アキ、アニメソングの売れっ子シンガーソングライター、大石昌良らの書きおろしの新曲が並んでいる。デビュー前のカバー曲や、大瀧詠一との親交の深さを物語る曲、同時代を歩んだアーティストや、今気になるシンガーソングライターとのコラボレーション。どの曲にも絶妙のストーリーとヒストリーがある。
80年代は、シャネルズで始まった。でも、彼らの中には、60年代も70年代も、そして、洋楽のカバーで始まった日本のポップミュージックの歴史が脈々と流れていると改めて感じさせる40周年記念盤だった。
(タケ)