間違いなく欧州文明の基礎、といえるのが紀元前5~4世紀に最盛期を迎えた古代ギリシャ文明です。古代ギリシャ人が考え出した哲学・数学・自然科学、その他諸々の学問は、その後ギリシャ地域も飲み込んだ古代ローマ帝国に大部分引き継がれ、現代の欧州地域に広がり、現在に至るまで影響を与えています。
音楽も例外ではありません。「音楽」という言葉は、英語でミュージック、フランス語でミュジク、ドイツ語でムジーク、イタリア語でムジカ、と各言語とも似ていますが、もとは古代ローマの言葉であるラテン語の「ムジカ」からきています。そしてこの「ムジカ」は、古代ギリシャ語の「ムシケー」が語源なのです。
数学者ピタゴラスも音楽に大きな足跡を残した
古代ギリシャ文明社会は、音楽を大変重要視しました。教育科目では、戦争に欠かせない体力を養うための「体育」と、「音楽」のみが全員の必修科目だった地域や時代もあります。音楽を学べばよい良い人間になる、と考えられていたからで、若い人たちは、なにか楽器の演奏技術の習得も必修とされていたようです。この考えは、その後の欧州最古の大学、イタリアのボローニャ大学や、英国のオックスフォード大学でも、設立当初から音楽を重要な履修科目としていた・・という形で影響を残しています。
そんな古代ギリシャの「ムシケー」は、音楽だけを表しているわけではありません。ギリシャ神話の最高神ゼウスと、女神ムネーモシュネーの間に生まれた9人の女神、「ムーサ」たち・・・複数形が「ムーサイ」となります・・・が司るそれぞれの技、というのが直接的な意味です。それぞれの女神は詩歌や劇、舞踊や天文、歴史などの神、とされているので、それらをひっくるめたものが「ムシケー」となります。いわば翻訳不可能なものなのですが、一つだけ共通点は、9人・・・神様だから9柱とすべきでしょうか・・・の司る技は、いずれも「時間」が必要なものだということです。音楽は「時間芸術」と呼ばれますから、そのことから、幅広い舞台芸術的なものであった「ムシケー」が、音楽という意味に段々と収れんされていったものと考えられます。ちなみに、同じ語源から女神の「ミューズ」も美術館の「ミュージアム」も派生しています。
「三平方の定理」で知られる古代ギリシャ人の数学者ピタゴラスも、音楽に大きな足跡を残しました。現代につながる「音階」の理論を考え出し、我々が通常使う「音名」にアルファベットを使う・・・といってもギリシャ語なので、現在のラテン語ベースのドレミファソラシド・・とは異なりますが・・・・というのも彼の発明です。
古代ギリシャ人は、「調和」ということを非常に重視し、天体の運行法則などにも「調和」を見つけようとしたのですが、「調和」は音楽にとっても大変重要です。ある音と、ある音を同時に鳴らすととても良い響きになる・・・現代風にいえば「ハモる」ということを理論化したのも、ピタゴラスだと言われています。もっともピタゴラスは同時に、「どうしてもハモらない」という自然法則も見つけてしまい、それが解決するのはバッハの時代、「平均律」が発明されてからなのですが、これは楽譜の話とはまた別の話なので、詳しくはまた別の回にゆずりましょう。