■『After GAFA 分散化する世界の未来地図』(著・小林弘人、KADOKAWA)
世は依然としてコロナ禍の真っただ中である。緊急事態宣言が解除になっても、我々の日々の行動に重くのしかかっているし、多くの人々のストレスを生んでいるように思う。世界では依然一日10万人以上の新規感染者が発生している中、日本は先進主要国の中で、突出して、感染者数・死亡者数が少なく、また、突出して、新型コロナ対策予算を計上しているにもかかわらず、国内メディアをみると散々な評価である。
この国民の不満の一つが日本のデジタル対応の遅れに伴う、リアルタイムの情報把握の限界、そして、給付事務の遅れと現場の混乱にあるように思う。新型コロナウイルスという危機を契機に社会変革を求める声があるが、デジタル化は間違いなく主要課題になるだろう。そんな思いで書棚を眺めていたところ、目に留まったのがこの本である。「DX」がデジタルトランスフォーメンションの略だと最近知り、時価総額1兆ドルを競うGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)に対し、「After GAFA」、そして「デジタルはすでにピークアウトした」と題する大胆さに手が伸びた。
「公開鍵暗号」のアイデアこそ21世紀のイノベーション
インターネットの創成期からこの世界をフォローしてきた筆者によると、IT(情報技術)は中央集権化と分散化を繰り返してきている。今は、GAFAという巨大企業が情報を中央主権的に集約し、マネタイズに成功している局面と見る。日本のメディアは役所への情報集積を嫌うが、企業への情報集積とマネタイズには寛容だ。情報集積への不安感を超えるだけのサービスを提供してくれていることによるのかもしれない。ただ、インターネットを担う技術者達の間では、この中央集権化への反逆の精神が生きているらしい。本書を読んで、IT技術者達の精神論や理想主義がバックボーンにあることに、ちょっとした感動を覚えた。
分散化する世界の未来地図を担う技術は、ブロックチェーンらしい。仮想通貨で一時ブームを生んだが、技術構造の核心にある「公開鍵暗号」のアイデアこそ、この21世紀のイノベーションであるという。正直、技術のことは良くわからないが、どうもGAFAへの情報集中構造を一変させる可能性があるようだ。問題は題名にもある「After GAFA」のビジネスモデルを描けるか、にある。ドイツや香港にフロンティアの集積が起き、銀行から音楽・アート業界に至るまで、既に実用化段階に入ったものもある。
日本はどうか?既存の大企業の動きの鈍さは痛烈に指摘されているが、同時に、ミレニアル世代への期待が語られている。筆者自身も関わっている地方の取り組みにも、期待できる。「「課題先進国」だから拓ける活路がある」という筆者の視点は大事だと思う。今のデジタル技術に「重ねる革命」を行うことで、ソルーションを見出していけるかにかかっている。
ブロックチェーンは「サトシ・ナカモト」という日本人らしき技術者の論文に始まる。次の分散化の局面において、日本から「After GAFA」の担い手が現れることを期待したい。ミレニアル世代ではない我々が邪魔しないように、謙虚に臨みたいものだ。
経済官庁 吉右衛門