コロナと自転車 疋田智さんは「条件つき」でツーキニスト増に期待

建築予定地やご希望の地域の工務店へ一括無料資料請求

   バイシクルクラブ7月号の「燃えよ!自転車オヤジ」で、疋田智さんが新型コロナ禍と自転車について論じている。今後、通勤手段としてさらに人気が高まるのではと。

   サイクリング愛好者の月刊誌。版元の枻(えい)出版社によれば「ロードバイク、マウンテンバイクで走ることを楽しみたい人に贈る硬派なスポーツバイク専門誌」となる。

   TBSプロデューサーの疋田さんは自転車ツーキニスト(通勤者)を名乗り、1999年のデビュー作『自転車通勤で行こう』以来、その方面の著作が多い。NPO法人「自転車活用推進研究会」の理事でもある。

   自転車通勤を四半世紀も続ける疋田さんだが、ご多分にもれずコロナ対策でテレワークが増え、出勤はしばらく週2日だったという。ちなみにTBS本社は港区赤坂にある。

「だからね、こういうときにこそ、自転車に乗りたいわけだ。運動不足を解消するしね、自転車は3密じゃないしね、ほぼ悪いことはないよ」

   しかし「なにかはばかられる」疋田さん...なのだ。

「買い物自転車ならまだしも、(趣味の)ロードバイクに乗ってると『このご時世、不謹慎だ』と社会から糾弾される。少なくともそんな気がする。これはわれわれ民族のホントに悪い癖だと思うけど、いったん我慢しよう、となると、すぐに『欲シガリマセン勝ツマデハ』...『とにかく我慢だ、誰だひとりで勝手に楽しんでるのは』になってしまう」
  • 日本でも自転車通勤が広まるか
    日本でも自転車通勤が広まるか
  • 日本でも自転車通勤が広まるか

フランスの優遇策

   ここで疋田さんは、4月末に共同通信が配信したパリ発のニュースを紹介する。外出制限の解除を控えたフランス政府が、国民に自転車利用を促す政策を約23億円かけて実施するという内容。家で眠っている自転車を使おうとする人々に、チェーンやブレーキなどの補修費を50ユーロまで補助し、無料の運転講習も用意するという。

「大規模とはいえないが、話の方向性は正しい。ポストコロナをにらんで『公共交通の密集具合は限界だから自転車を』と...要するに『メトロ(パリの地下鉄)には元のようには戻れない、だからクルマに』とならないように、自転車を優遇するというわけだ」

   「悪くない。日本だって(特に東京)そうだ。考えてみれば、あの満員電車の方がそもそも異常だった」と書く疋田さんは、仏政府の施策に賛同しつつ、日本でもさらに自転車通勤が広まることを期待する。ただし、先駆者としての注文も忘れない。

「じつはひとつだけ大注意項目がある。それはこれまで以上のセーフティ。つまり事故を起こさないことだ。何かやって病院に医療負担をかけることがないように。それこそがわれわれに課せられた義務だ」

都市文化として定着するか

   外出自粛の解除後、自転車による通勤が増えそうなことは大いに想像できる。

   まさに引用誌の冒頭記事「HEAD LINE」でも、「自転車通勤推奨の落とし穴」と題して、利用者が急増した場合の道路事情を案じている。ヘルメットもかぶらず、走行にも慣れていない「にわかツーキニスト」が増えるだろうと。疋田コラムの前向き思考とは逆のようだが、疋田さんはこちらの記事にも登場し、「幹線道路は避けて、交通量の少ない道を選ぶことこそがサイクリストのソーシャルディスタンスだ」と語っている。

   コロナ禍が変えたものはいくつもあるが、一部は新たな生活習慣、社会常識、企業文化などの形で定着していくだろう。例えば「三密」防止の工夫や、やたら大声で話さないこと、「出勤より体調」などなど。全社員をテレワークにしても支障がなかった小企業が、本社として借りていた部屋を解約する話をテレビでやっていた。「新たな日常」である。

   自転車通勤は、同好者を増やして都市文化として定着するのだろうか。それにはまず、いまは車道の左端に申し訳程度に描かれている二輪レーンを拡充するなど、走行環境の改善が前提になる。利用者だけ増えたのでは、歩行者や自動車との事故が増すだけだろう。

   自転車に限らず、こういう過渡期こそ専門誌や専門ライターの出番である。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

姉妹サイト