■『何が資産か。』(著・谷口正和 ライフデザインブックス新書)
2040年は、一人暮らし世帯が1994万世帯と全体の40%を占め、うち75歳以上が500万世帯。これからの時代、第二、第三の人生をそれまでの地位やプライドを取り払って過ごす知恵が必要となる。そのモチベーションは、他人とのコミュニケーションから生まれる。
世界の街角から最新の空気を感じ、近未来について、毎年のように著作を重ねる谷口氏が、自己投資を行うことで、「だれでもブランドを持ち、生きがいを見いだせる」という無形資産形成の重要性を説く。ノマドの暮らしを実践する若い世代はもとよりだが、組織で働いてきた中高年に向けたエールにもなっている。
何もしないは未来への準備
日本マイクロソフトが、毎週金曜日を休業日にし、会議は30分まで、オンラインのやりとりを奨励したところ、労働生産性が40%あがった。何もしないことを恐れず、従来にないことをゼロベースで考える「未来への準備」という時間を作るのだ。
見識を広めるために留学する若者が、中国では急増しているのに、詰め込み型の受験勉強に明け暮れる日本の若者は「自ら考え行動する力」が弱いままだ。自らがセミプロとして社会課題を解決する領域を持つことが、自己投資の基本となる。一度お会いしたお客様に二度、三度とお会いする魅力をどう作るか。顧客が価値を見失いかけていたら、一緒に価値を見つけ出す、そのコミュニケーション能力も大切になってくる。
心の奥底からの情熱と学び
画一よりも違いが重要視されるいま、心の奥底からの喜びや情熱に訴える時間が、働き先としても、サービスとしても重視される。中高年の個人は、社会で経験したことの蓄積を個性ある資産として生かすことができる。とくに、生活の拠点を置いた場所に感じる文化的な特徴は、他人が持たない個人資産の典型だ。その場所に定住する喜びとほかの地域を訪れる喜び。新しい場所での生活は、五感すべてが発揮され、モチベーション向上にも、幸福感にもつながる。
内閣府の調査によれば、おとなの学びの動機は、教養を深める、人生を豊かにするが、仕事に生かす、家庭生活に生かす、を上回っている。もはや、学びは人生そのものの土台になってきている。
物販の個人間取引は、ヤフー・オークション、メルカリと進化を遂げているが、生活者の課題解決のための人と人とのマッチングにもビジネスの波が起きている。クッキング、引っ越し、外国語、楽器演奏。心の安寧を願う生活者が望むものは、商品よりも自らのスキルアップだ。
周囲へのバトンパスという意識
情報社会において、自らが学習して他者とつながることができるのが最大の武器となる。興味関心を持ち続け、謙虚な態度で接することで、気づきが連鎖し、過ちはただされる。しかも、学んだ知識をすぐに発信することができ、そのフィードバックが次の連鎖を呼ぶ。
老いに関する調査によると、老いをポジティブに考える人は80%を超えている。リモートを活用すれば、在宅のままで、多くの出会いと学習が可能となる。教えることも学ぶこともできる。
この作品のキーワードは「自己肯定力」である。横並び、社会的な地位や肩書を意識しないで、自らの興味関心、心の奥底からの熱意を大切にすれば、目に見えない資産形成の動機が生まれ、情報社会の利点をもってすれば、世界中の師、同士、顧客と知り合い、相互に啓発できる。顧客からは利益も得られる。
近未来のできごとを象徴するアネクドートが描かれていないだけ、読者の想像力が問われる。仕事人間がリタイアして、退屈することがないように、長年世界を見て回った著者から、なにかやってみれば、と背中を押していただけた気がした。
ドラえもんの妻