専門家の言葉の重み
メジャー週刊誌での連載は、そうそう入れ替わらない。それだけに編集サイドは筆者の能力や実績を吟味するし、始まればロングランとなる企画も多い。
東畑さんは昨年末、『居るのはつらいよ』(医学書院)で第19回大佛次郎論壇賞(朝日新聞社主催)と第10回紀伊國屋じんぶん大賞を受けており、目利きの文春が新連載を託したのは不自然ではない。初回を読む限り、軟らかい話もイケそうだし、何よりご本人が意欲的だ。タイトルは「先が見えない新連載」と自虐的だし、結語は「あぁ、芸能人のスキャンダルをバッサリ切るような連載はいつになったらできるのだろうか」である。
このタイミングで連載を始める臨床心理学者が、コロナを素通りしたらむしろ不自然だろう。読者としても、まずは手慣れた分野で存分に書いてもらうほうが安心だ。
「未来が見通せない中で、焦って動いてもいいことはない。まずは様子を見よう」という結論にさほどの驚きはない。だが、様子見こそ「メンタルヘルスの最終奥義」と言われると不思議な説得力がある。専門家=その道のプロが発する言葉の重みである。
冨永 格